【i-Con2021⑤】JR西日本 | 建設通信新聞Digital

4月25日 木曜日

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【i-Con2021⑤】JR西日本

 建設工事の飛躍的な生産性向上を目指すi-Constructionが、鉄道工事の分野でも積極的に展開されている。建設工事や維持管理、安全対策などに、BIM/CIMやAI、レーザセンサなど最先端の技術を鉄道工事に最適化し、業務の省力化や効率化などの生産性向上につなげている。積極的にICTの活用を進めているJR東日本とJR西日本の最新の取り組みを紹介する。
BIM/CIM本格運用へ/鉄道MMSを建設にも活用/駅部改良で一貫活用のトライアル

 JR西日本の大阪工事事務所では、BIM/CIMの取組みを、これまで測量や設計、施工の各場面で試行的に進めてきた。将来的には、測量から設計・施工・維持管理までの業務サイクルで、3次元モデルデータを一貫して活用することを目指しており、そのトライアルをいつくかのプロジェクトでスタートした。これまで試行的に、部分的な活用を進めてきた同社にとって、BIM/CIMの本格運用に向け「今、大きな一歩を踏み出した」と、BIM/CIM推進責任者で大阪工事事務所施設技術課の北健志主査は力を込める。

 これまで同社では、新技術導入による生産性向上を目的に、5年前から「建設ICTの活用検討WG」を立ち上げ、建設部門のみでなく、社内の関係各部門、さらには設計や施工関連のグループ会社も含めたグループ全体で各種検討、課題整理を進めている。WGの事務局的な役割も担っている大阪工事事務所では、これまでのノウハウを活かし、さらに本格的に推進するため、2020年4月にBIM/CIM推進PTも発足させた。

 これまでの取り組みとして、施設部門では、レーザスキャナーやGNSS(全球測位衛星システム)などを搭載した車両「鉄道MMS(モバイル・マッピング・システム)」を開発しており、線路上を走行しながら鉄道線路や周辺設備の現況について点群データの取得を実用化している。北氏は「保守部門においては、鉄道MMSのデータを活用し、さらにはこれまでの地上検査を車上化することなどによって、メンテナンスのシステムチェンジ、CBM(Condition Based Maintenance)の実現を進めている。この鉄道MMSのデータについては、建設工事においても有効に活用することができる。例えば鉄道MMSのデータに航空・地上レーザー測量などを併用し、両データを組み合わせることで、広範囲の点群データを構築でき、建設工事においても活用の幅は広がる」と考え、社内各部門やグループ会社と連携しながら、精度確認やデータの組み合わせ方法などトライアルを重ねている。

 通常の車上測定では時速40㎞ほどの路線走行で現況データを取得しているが、土木の測量データとして活用するには「時速5㎞程度でゆっくり走行し、標定点を数十mごとに設け、さらに上下線を往復(不動点でデータを重ね合わせなど)すれば、従来測量と同等以上で設計実務のレベルにも対応できる精度の高いデータを取得できる。鉄道MMSの建設への活用についても実用化の目途が立ってきた」と明かす。

 今回、測量から設計・施工・維持管理までBIM/CIMの一貫活用を目指すトライアルプロジェクトでは、鉄道MMSと地上レーザー測量の併用を行った結果、従来の測量では線路内作業(夜間)で3カ月ほどかかる作業が、わずか3日(夜間)で完了した。線路内作業を減らすことで、作業の安全性向上にも貢献できた。

 同プロジェクトは、駅部の改良工事であり、土木・軌道工事と建築工事、電気工事が錯綜する。概略設計段階の活用として、土木構造物と建築構造物の設計成果を3次元モデルデータ上で重ね合わせ、構造物の干渉の確認などを視覚的に行うことができた(図1)。これまでの土木と建築、あるいは電気関係のそれぞれ設計図から、競合の有無を確認する作業は難易度が高く、手間が掛かる作業であったが、効率的かつ確実に確認できた。

構造物の干渉の確認などを視覚的に確認(図1)


 現在、同プロジェクトは詳細設計の段階で、担当するジェイアール西日本コンサルタンツにとっても「MMSでの測量データを詳細設計に反映したBIM/CIMの試みは初めて。今後の展開を見据え、社としても多くの成果を導き出していきたい」(中谷紘也土木設計本部BIM/CIM推進室課長代理)と力を注いでいる。

 鉄道建設工事へのBIM/CIM導入の試みは設計会社のみでなく、施工会社においても検討を進めている。施工会社と連携して取り組んだ重機施工シミュレーションに展開し、3次元モデルデータを活用することで、施工計画の深度化ができた(図2)。鉄道工事では狭隘な箇所での施工を求められる場合も多く、電気の架線のほか、車両限界や建築限界といった目に見えないラインも考慮した検討が必要となる。これまでの平面図情報では、関係者間で共有しにくかった施工段階の情報を確実に共有できることで、工事の安全性向上に寄与できるとともに、打合せ時間の短縮効果もある。

北陸新幹線の建設工事で前田建設工業と連携した施工計画での活用(図2)


 工事が着手すると、今後、発注者・設計者・施工者の3者間でのさまざまな検討や協議を行う場面も増えてくる。JR西日本の北氏は「関連工種は多岐にわたり、仮設工事の段階から3者がしっかりと連携する必要がある。BIM/CIMモデルはそのための有効なツールになる。社内外への説明資料などにも大いに活用することができ、プロジェクトの円滑な推進に寄与できる」とトライアルプロジェクトへの手応えを口にする。

 大阪工事事務所管轄では、測量から設計、施工までの全プロセスでBIM/CIMを一貫して活用する取組みを順次拡大する見通しだ。トライアルプロジェクトは施工期間が複数年におよぶが、「BIM/CIMの成果をしっかりと導き出し、次につなげていきたい」と北氏はしっかりと先を見据えている。

3次元モデルで橋梁管理

 3次元構造物データの維持管理への活用として、JR西日本の保守部門とJR西日本コンサルタンツ、アジア航測で開発したBBMAPS(3Dモデルによる橋りょう維持管理システム)は、主に鉄筋コンクリートの高架橋を対象に、設計図のデータに基づき3次元モデルを作成し、モデル上にさまざまな維持管理情報を加えることができる。例えばコンクリートのひび割れやジャンカなど、変状の種類や発生位置、写真を3次元モデルに貼り付けることが可能であり、どの部位でどのような変状が生じているのか、これまでの紙ベースでの情報に比べると、視覚的に状況を把握することが可能である(図3)。さらに、変状展開図や台帳等、維持管理情報を自動作成でき、維持管理業務の効率化を実現している。

図3


 BBMAPS以外にも、これまでに幾つかのシステム開発を行ってきた。同社ではこれまでに開発してきた各種システムについても融合し、調査・設計から維持管理まで、3次元モデルを活用した一連のプロセス実現を目指している(図4)。

図4



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