【関西建設業はいま】緊急度高い施設整備を推進 南海トラフ巨大地震対策が着々と進行中 | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【関西建設業はいま】緊急度高い施設整備を推進 南海トラフ巨大地震対策が着々と進行中

 阪神・淡路大震災、東日本大震災、2018年の台風21号による水害など近年頻発・激甚化する自然災害によって、建築物に求められる性能や災害への備えや対策は大きく変わってきた。関西では南海トラフ巨大地震や豪雨による水害などで大阪市の地下街が浸水する可能性が指摘されており、各地方自治体などがその対策を進めている。

木津川水門の整備イメージ


 近畿地方整備局は、スーパー台風の来襲など最悪レベルの事態を想定し、水害への対策を考える大阪大規模都市水害対策検討会を開き2018年3月に大阪市域の被害想定などを盛り込んだ「大阪大規模都市水害対策ガイドライン」をまとめている。

 洪水編と高潮編に分けて想定を出しており、洪水については対象河川を淀川、降雨規模を1000分の1(1年に同等以上の降雨が起こる確率)とし、淀川左岸9.2㎞を破堤地点とする洪水が発生したケースでは、浸水面積約720万ha、浸水区域内人口約12万人(夜間)、影響人口は電力被害15万9000人(同)、ガス被害1万6000人(同)、上水道2万8000人(同)とする。

 地下鉄(大阪メトロ)については、破堤1時間後に天神橋筋6丁目駅から浸水し、2時間後には同駅から谷町線と堺筋線に浸水が拡大し、御堂筋線・中津駅からの浸水も始まる。3時間後には梅田地下街に浸水が到達し、18時間後に最大エリアまで浸水が拡大し、この時の浸水量は650万m3とする。地下鉄とJR、私鉄を合わせた鉄道駅全体では14路線100駅で浸水が発生するとした。

 地下街は、梅田エリアで破堤3時間後に地下街が浸水して12時間後にほぼ満管状態となり、心斎橋・難波エリアは破堤9時間後に浸水し、18時間後に満管状態となる。

 高潮でも氾濫開始から3時間で地下街に氾濫水が流入し、梅田エリアでは氾濫開始9時間後、心斎橋・難波エリアは同6時間後に満管状態になるとする。

 また、いずれの場合でも堤防決壊個所を中心に家屋の流失や土砂の流出が発生する可能性があるが、大阪市内については市が大阪建設業協会らと協定を結んでおり、緊急交通路重点路線は排水完了後1日での道路啓開を目指す方針としている。

 大阪府は、有識者らで構成する南海トラフ巨大地震災害対策等検討部会を設置して科学的・客観的な観点から検討し、13年度に被害想定などを公表している。

 津波浸水想定では、内閣府の「南海トラフの巨大地震モデル検討会」が公表した11パターンの津波を対象とするが、府内の浸水面積は最悪のケースで1万1072haになるとしており、これは内閣府が公表した3050haを大きく上回る数値となる。

 地震発生後の津波最短到達時間は大阪市内で110分台、府南端の岬町では54分となっており、揺れが収まればすぐに避難開始するよう求めている。

 その大阪府は南海トラフ巨大地震に備え、防波堤の液状化対策と三大水門の更新事業を推進している。「南海トラフ巨大地震土木構造物耐震対策検討部会」で巨大地震に備えた対策検討を始め、防潮堤や水門、下水道などの構造物に与える影響を点検し、地震津波対策を推進することを決めた。

 15年3月には「地震防災アクションプログラム」を策定。防潮堤の強化や三大水門の更新を施設強化の柱とした。

 防潮堤の強化では、14-23年度までの10年間を計画期間、全35.4㎞を事業対象とする。15年時点の被害想定額は28兆8000億円だったが、この対策を実施することで、24年時点でこれを12兆5000億円まで縮減できる見込みだ。20年度末までには30.9㎞を終える。21年度は六軒家川や木津川など5河川約2.4㎞で工事を実施し、22、23年度に残りの1.5㎞に着手する。

 三大水門の更新では、完成後50年が経過し老朽化が進む安治川水門、尻無川水門、木津川水門で対策を進める。高潮対策を目的としており、18年の台風第21号襲来時には約17兆円の高潮被害を防止した。更新では従来の高潮対策に加え巨大地震にも対応する機能を盛り込む。

 1つの水門につき約10年で更新を完了させる。木津川水門は20年度に詳細設計を進めてきた。21年度は施工計画検討を進め、安治川水門の調査・検討にも着手する。木津川水門は31年まで、安治川水門は25年から34年ごろ、尻無川水門は32年から41年ごろの整備を想定している。

 南海トラフ地震による津波が関西で最も早く到達する和歌山県では、津波が到達するまでに安全な場所に避難できない地域(津波避難困難地域)を対象とした「津波から『逃げ切る!』支援対策プログラム」を2014年度に策定し、10年間でさまざまな防災対策を進め、24年度までにすべての津波避難困難地域を解消させる方針だ。21年度予算案には事業費24億3000万円を計上している。

 各市町村が避難路や津波避難タワーといった緊急度の高い施設整備を進め、県は河川・海岸堤防、港湾・漁港施設などより大規模な整備を担う。

 東海・東南海・南海3連動地震では、津波避難困難地域を4町22地区(避難困難者数4000人)と想定し、10年間で220億円を投じて避難路や津波避難タワー整備などの対策を行う。既に14地区で解消している。

 南海トラフ巨大地震では津波避難困難地域を12市町61地区(避難困難者数2万2700人)と想定し、市町協議会で高台移転や複合避難ビル整備など地域改造も含めて検討する。これまでに8地区で解消しており、今後も順次対策を進めていく。

 また、県では「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の機会を捉えた積極的な対策を行っており、21年度予算案には主要河川の整備に49億7000万円、砂防関係施設の整備に53億2000万円を計上している。

田辺市の芳養津波避難タワー



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