【価格から質的評価へ】知的生産者選定支援機構・仙田理事長に聞く 日本の現状と機構の役割 | 建設通信新聞Digital

5月5日 日曜日

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【価格から質的評価へ】知的生産者選定支援機構・仙田理事長に聞く 日本の現状と機構の役割

 設計業務などの価格による評価を質的評価に転換するため、2020年11月に「知的生産者選定支援機構」(理事長・仙田満東工大名誉教授)が発足した。地方自治体に対する選定プログラムの策定支援や、設計者選定に関する審査員の推薦・派遣などによって、知的生産業務の質による評価を促す。5月までに建築分野の評議委員会を設置し、21年度には1~2件の支援モデル実施を目指す。「地方財政が厳しい中、少ない予算を有効活用するためにもアイデアで競争しなければならない時代になっている。日本だけが世界から取り残されている」と訴える仙田氏に機構の役割などを聞いた。

仙田満理事長


 機構は、仙田氏が委員長を務める「知的生産者の公共調達に関する法整備連絡協議会」のメンバーを中心に、同協議会の下部組織的な位置付けとして設置した。将来的には公益社団法人化への移行も想定している。

 主な事業は、▽知的生産者の公共調達選定支援についての周知、広報▽地方自治体に対する知的生産者選定プログラム策定支援▽知的生産者選定に関する審査会などへの審査員の推薦、派遣▽知的生産者業界ごとの分科会を設け、相互の情報共有・発信▽関連機関との連携、調整、協力――の5つ。

 仙田氏は「小さな自治体の場合は建築、土木分野とも技術職員が少ない。選定方法がわからないので入札によって一番簡単な価格で決める。地域での順番や、くじ引きで決める形は非常に問題だと思っている」と、知的生産業務の公共調達をめぐる現状を問題視する。

 知的生産業務の価格競争入札の排除については、日本学術会議の土木工学・建築学委員会が14年9月に「知的生産者選定に関する公共調達の創造性喚起」、17年9月には同会議の法学、経済学、土木工学・建築学の3委員会合同による知的生産者の公共調達検討分科会が「知的生産者の公共調達に関わる法整備―会計法・地方自治法の改正」と題した提言をまとめている。

 一方、自民党の知的財産戦略調査会が20年5月に、プロポーザルやコンペ方式といった適切な設計者選定方式採択の徹底や、会計法・地方自治法の改正を視野に入れた検討などを盛り込んだ提言を政府に提出しており、「価格から質」への転換機運も高まっている。

 知的生産者の公共調達検討分科会でも委員長を務めた仙田氏は、「海外にあるようなコンペの審査を支援する組織が必要だという話は前からしていた」と説明する。

 「会計法・地方自治法を改正して、設計入札をとにかくやめる方向にしないと日本の知的生産レベルは上がっていかない」。仙田氏がこう指摘するように、国際競争力の面でも価格だけでの競争は大きなネックになる。

 例えば中国では、他国の場合ほぼ国内の建築家が手掛ける五輪施設などの設計業務を海外にも広く開放し、世界の知恵を吸収して知的レベルを高めている。仙田氏は「若者にとっては国内で世界的なレベルの設計に触れられることが、すごく勉強になる」と指摘する。

 また、「日本では必ず実績を聞かれる。世界初だと日本ではできないが中国ではできる。この違いは大きい」と日本の実績偏重主義を問題視した上で、「地方創生もアイデアで戦えるようにしないと若者のビジネスチャンスも広がらない。実績主義で順番を待っている状態ではどうしようもない」とシステムの変革を訴える。

 「建築設計で入札にふさわしい物件はないとこれまでも主張してきた。公衆トイレでもアイデア次第ではまちの活性化につながる。ましてや、学校を入札で選定するなんて犯罪に等しい」。学校建築の設計入札全廃に向けた運動も積極的に展開する。

 今後は5月までに、設計者の審査員を自治体に派遣するための組織として機構内に建築分野の評議委員会を設置する。評議委員は「最終的に50人程度はそろえたい」考え。建築学科がある全国の大学に協力を要請した結果、3月24日現在で39大学から95人の推薦が来ている。

 将来的には土木分野の評議委員会も設置し、建築設計者の選定だけでなく、より広い分野で知的生産業務の公共調達における質の向上を後押しする。仙田氏は、「目先の価格の安さだけで選定するのではなく、少ない予算を有効に使うためにもシステムを改めなければならない」と“質的評価の原則”への転換に固い決意で臨む。



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