【日刊建設通信新聞社主催】第4回 BIM/CIM LIVE2020③ | 建設通信新聞Digital

4月28日 日曜日

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【日刊建設通信新聞社主催】第4回 BIM/CIM LIVE2020③

土木研究所 技術推進本部先端技術チーム上席研究員 森川博邦氏/目的は3次元モデル作成でない


 ICT活用工事では3次元モデルが使われており、計測後の点群モデルなどが残る。これを使えば、維持・管理段階もBIM/CIMのサイクルに乗せられるが、すでに多くのインフラが整備されているなかでは、維持・管理から3次元モデルを使うにはどうすればいいのかを考えなければならず、その手法としてロボット点検を紹介する。

 維持・管理においては点検というプロセスがあり、今はその点検にロボットを導入する取り組みが進んでいる。国土交通省道路局では2019年2月に定期点検要領を改定し、ロボットなどの新技術利用ガイドラインと点検支援技術性能カタログをまとめており、ドローンなどのロボットを導入・活用できる環境になってきている。実際のロボット点検では、ドローンを自動飛行させて写真を撮るということになり、最近では全方向衝突回避センターを持ち、桁の中を飛行して撮影できるドローンもある。

 そして、点検で取得した複数の写真からSfMを使って3次元モデルを作成し、そのモデル上で計測などもできる。全体は点群モデルの形で再現され、任意の場所の写真を大きくして見ることもできるので、何が写り、どこに注目してほしいのかを強調し、写真とともに文字の説明も入れることで、これまでよりも精度の高い記録が残せる。

 また、UAVで撮ったものだけでなく、レーザースキャナーの点群でも3次元モデルの作成は可能で、点検時以外のパトロールなどの機会に全天球カメラで写真を撮れば、それで3次元モデルを作ることもできる。BIM/CIMは3次元モデルを作ることが目的ではないので、このように何かの業務をした結果、モデルができるということが重要だと思う。

 これから考慮すべき点としては、点検サイクルに比べ技術革新のスピードが速いため、前回点検時のデータが使えなくなっている懸念があること、データ保管基盤の更新と資産の継承、取得時期が異なるデータを重ねられるかといった新旧情報のマージについても考えておかねばならない。DX(デジタルトランスフォーメーション)につなげていくために、どういったデータの取得方法が良いのかなど常に業務の体系を見直していくという姿勢も求められる。


日本工営 事業戦略本部 DX推進室室長 佐藤隆洋氏/効果を見える化し課題導く


 DXの第1段階は「デジタルデータ化」、つまり紙図面や現場の高機能・高精度化で、それに続く段階が「デジタルプロセス化」だ。データ化は効果が分かりやすい一方でプロセス化はワークフローの観点に立つため、焦点が複雑になり、効果の発現にも時間がかかる。

 2017年に英国にある弊社のグループ会社BDP社を視察した。BIMとは3次元モデルを使った業務プロセスであるという説明を何度も受け、BIMがプロセス管理に活用されている現実を目の当たりにした。「このままではまずい」。危機感を覚えた私は社内の「デジタル化」から「デジタルプロセス化」へのシフトを加速すべく取り組み始めた。

 社内におけるCIM推進体制や計画を一部見直しチームの追加や強化も図ったが、効果はまだ十分出せていない。国土交通省がBIM/CIMの原則適用を打ち出しており、こうした動きがこの流れを後押しすると期待している。

 新型コロナウイルス感染症の流行で移動が制限される中、デジタル空間上で現場を共有する取り組みを実施。3次元データを扱える技術者と従来の2次元ベースで作業する技術者を組み合わせ、効率的に作業を進めることができた。ユーザーインターフェースの変化を最小限に抑え設計の迅速化と的確化を図るのがフルBIM/CIMへの移行期間における現実的な解だと考えている。

 計画段階から「見える化」しデータもBIM/CIMにつなぐ「リアルタイム3D制作プラットフォーム」の構築にも取り組んでいる。ゲームエンジンを使用し「リアルタイム3D制作共有プラットフォーム」として多自然川づくりや景観検討など、これまで手作業が多かった計画段階に適用する。離れていてもPCやVRを使って仮想空間の中で確認できる。移動の制約を受けず、意思決定までの時間短縮にもつながる。

 DXとはデジタルプロセス化においてこそ効果を発揮する。小さなプロセス改善から始め、効果を「見える化」することで次の課題が見えてくる。

 われわれがBIM/CIMで目指す提供価値とはヒト中心で使いやすい社会インフラを目指すためにデジタルツインテクノロジーを使い、価値を生み出すことにあると考えている。


五洋建設 土木部門土木本部土木設計部 堤彩人氏/バーチャル空間の協働作業に優位性


 技術協力・施工タイプのECI方式を採用する福岡空港滑走路外地盤改良工事の技術協力業務でBIM/CIMを活用した。発注者の九州地方整備局、設計を担当する復建調査設計と協議・連携しながら、2020年5月から7月まで業務を実施した。施工者の役割は技術提案からスタートすることになるが、より良い設計のための技術を提案し、技術の有効性や確実性を発注者と設計者に提示することが最も重要だと感じた。

 工事は、福岡空港内の滑走路と誘導路の地盤改良を行うもので、薬液注入工を採用した。ECIの協議では、削孔開始位置の確定が課題となったが、この課題を解決するためにBIM/CIMが重要な役割を果たした。3次元地盤モデルを使い、どの方向から削孔するのが良いかをモデリングしながら検討し、成果を得ることができた。

 地盤改良工事の施工は施工個所が見えないことから、地中構造物との干渉リスクや地盤異常検知、出来形把握など、多くの課題がある。このため、五洋建設ではBIM/CIMを活用して間接的に地中を「見える化」するツール「Gi-CIM」(ジーシム)を開発し、地盤改良工事の施工管理に活用している。3Dモデル上で実績削孔出来形を忠実に再現できるほか、フロントローディングの実施や地下水位の動態管理なども容易に実施することが可能だ。サンドコンパクションパイル(SCP)工法を始め、多くの工法で導入できるが、特に「曲がり削孔式浸透固化処理工法」と親和性が高い。今回の工事でも「Gi-CIM」を導入する計画だ。

 今回、受注したECI業務では、発注者・設計者・施工者の連携、そして合意形成の迅速化と確度向上のためのコミュニケーションスキルが業務を進める上で重要になることがわかった。また、新型コロナウイルス感染症への対応で、ウェブ会議が一般的となり、紙ベースのコミュニケーションが減少するなど、働き方も変化している。

 こうした状況への対応として、バーチャル空間におけるリアルタイムでの協働作業ができるBIM/CIMは非常に有効だ。今後も普及が進み、より高度なことができるようになれば、われわれの仕事はもっとやりやすくなるだろう。

福岡空港滑走路外地盤改良工事にかかる技術協力業務





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