【記者座談会】広がる木造建築 | 建設通信新聞Digital

4月18日 木曜日

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【記者座談会】広がる木造建築

A 日本は「木の文化」とも言われるが、木造建築が比較的規模の大きな建物にも広がりつつある。ゼネコンなどによる耐火木造部材の技術開発も一定程度進展し、これから本格的な普及期に入るとの期待も大きい。今後の見通しはどうだろう。

B 矢野経済研究所が、国内非住宅木造市場を調査した結果をまとめている。2021年度の見通しは、20年度から着工計画が先送りされた大型物件などの需要のずれ込みによって、一時的に数%程度の増加を見込む。21年度以降の伸び幅はそれほど大きくはないものの、3%前後の伸び幅を維持しながら拡大していく見通しだ。23年度は床面積ベースで425万㎡、工事費予定額ベースで6993億円と予測している。

C 企業間連携によって木造建築を展開する動きもある。熊谷組と住友林業は、中大規模木造建築ブランド「with TREE」(ウィズ・ツリー)を立ち上げた。コンセプトは「環境と健康をともにかなえる建築」。都市の建築に「木」が生む新しい価値を提供し、中大規模建築の木造化・木質化を進める。環境対策という点だけでなく、ウェルネス領域にまで踏み込んだのがポイントだろう。

D SDGs(持続可能な開発目標)、カーボンニュートラルに向けた動きなども、建築主の環境意識をますます高めている。一定のコストはかかるものの、環境や人にやさしい建物に対する関心は飛躍的に高まった。

野村不動産によるオフィスビル「H1O外苑前」の完成イメージ

◆CO2削減へ導入施設も多様化

A 熊谷組と住友林業の取り組みは、野村不動産による中高層オフィスビルでの採用が決まった。このオフィスビル「H1O(エイチワンオー)外苑前」(東京都渋谷区)では、主要構造部の柱や梁の一部に木造ハイブリッド構造を導入する。一般的なS造のビルに比べ、CO2排出量を約21t削減できる見通しだ。さらに、木材が成長段階で吸収するCO2として約19tを固定する効果も見込んでいる。

B 一方、国内最大・最高層となる見通しの木造オフィスビル計画もある。三井不動産は東京・日本橋に、17階建て延べ約2万6000㎡の木造ビルを計画している。主要な構造部材には竹中工務店による「燃エンウッド」を採用する計画で、23年の着工、25年の竣工を目指す。

C 野村不動産が「今後もオフィスに限らず幅広い分野で活用を推進していく」としているように、木造建築の施設分野の多様化が進みそうだ。

D 桐朋学園大仙川キャンパス(東京都調布市)では、CLT(直交集成板)を構造材とした世界初の音楽ホールが完成した。隈研吾氏がデザイン監修し、折り紙にヒントを得た折板構造を導入したという。ホールは約17mの大スパンで、ひのきのCLTを採用。CLTは防火として十分な燃えしろを確保するとともに、音響反射性も兼ねている。隈氏は「ひのき材の優しい音響効果によって、世界最高レベルの音質が実現した」と話す。

A 公共施設での導入も増加傾向にある。東京都江東区が18年に完成させた「江東区立有明西学園」は延べ約2万5000㎡の大型施設で、ハイブリッド構造を採用している。他の地方自治体からの関心が非常に高く、多くの関係者が視察に足を運んだ。

B カーボンニュートラルに向けた動きが、さまざまな分野で加速している。50年の温室効果ガス排出ゼロに向けた目標の達成は、そう簡単ではなさそうだが、その一方で関連市場の拡大も期待できる。木造建築は、その代表格と言えそうだ。



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