【高卒入職者の産業別シェアは高水準】建設経済研究所が技能者の就業構造変遷を調査・分析 | 建設通信新聞Digital

4月28日 日曜日

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【高卒入職者の産業別シェアは高水準】建設経済研究所が技能者の就業構造変遷を調査・分析

 建設経済研究所は、高度経済成長期から現在までの技能者の就業構造と労働条件の変遷に関する調査・分析結果をまとめた。高卒新卒の入職者数は全体と比例して減り続けている一方で、建設業のシェアでみると過去60年間で高水準にあることが分かった。労働条件は長期的には改善傾向にあるものの、いまだ他産業に見劣りする部分が多く、同研究所は「短期的な業況に左右されずに長期的な姿勢で業界を挙げて賃金・労働条件の改善に取り組むことが必要だ」と結論づけている。

 男性の高校新規卒業就職者(1976年までは中学を含む)のうち、建設業に就職した人数の推移は、66年には6万人以上の中学・高校卒業者が建設業に入職していたが、2020年には78.7%減となる1万3498人まで減少した。平成に入ってからの最高数だった96年の3万4600人を基準としても38%減で、高校新卒者の建設業への就職者数は大きく減少している。

高校新卒者(男性)就職先産業別シェア


 ただ、これは建設業だけのトレンドではない。全産業の高校新卒就職者は63年の72万1397人から10年の9万9421人へと86.2%減少している。建設業の減少度合いは全体と同程度だと言える。

 他方、高校新卒者の就職先の産業別シェアをみると、20年の建設業は12.1%で、過去60年の中でも高い水準にある。この数字は、GDP(国内総生産)に占める建設業のシェアや就業人口に占める建設業のシェアよりも高く、高校新卒者の入職は建設業が他産業に比べて低調ではないと分析する。

 離職の状況はどうか。厚生労働省の新規学卒就職者の離職状況(17年3月卒業者)によると、高校新卒就職者の3年以内離職率は全産業39.5%、製造業29.2%に対して、建設業は45.8%と大幅に上回っている。大学新卒就職者の離職率は建設業が29.5%で、全産業の32.8%は下回っているものの製造業の20.4%よりも高い水準にある。

 同研究所は「高校新卒就職者という母集団の規模の急激な縮小の下で、むしろ健闘しているとさえ言えそうだ」と指摘する。一方で、高い離職率から「新卒就職者の定着を図ることが重要な課題である」と提起している。



■女性技能者は上昇基調
 女性技能者数の推移をみると、10年代前半には10万人を下回っていたが、15年以降上昇基調に転じ、20年は約13万人となっている。近年の女性参入は「左官」のような技能は要するが力仕事は相対的に少ないと考えられる職種で注目されることが多く、「建築技術者」「土木・測量技術者」といった技術者層で女性が増加している。

 一方、90年代以前までさかのぼると、20-30万人の女性が建設業に技能者として就業していた。国勢調査から過去の女性技能者の大半は「土木作業者(道路工夫)」として働いていたことが分かった。力仕事が必要となるものの、技能の習熟度が比較的低くても働くことができることから多くの女性が作業に従事していたと分析している。

 一人親方の就業者数を分析すると、76年から01年までの26年間は50万人から55万人の間で安定的に推移していたが、02年以降は増加基調に転じた。20年は59万人だった。一人親方の生産労働者に占める比率をみると、建設業就業者数・建設業生産労働者数が過去最高となった97年から上昇を続け、20年の割合はこの60年で最高の18.2%となっている。製造業における一人親方の割合は90年代から減少を続けており、建設業と対照的な動きをみせている。

 一人親方という働き方自体には問題はないが、近年、社会保険加入や働き方改革などの規制逃れを目的とした“社員の偽装一人親方化”が懸念されており、動向に注視が必要だ。

 労働条件の変遷については、技能者の賃金はバブル崩壊後停滞していたが近年ようやく改善が進み、年収ベースで製造業生産労働者の水準とそん色ないところまでに至っている。出勤日数は長期的に確実に減少を続けているが、建設業就業者の出勤日数は他産業と比べて常に多い状態が続いている。労働災害は00年代以降、発生率が他産業を下回る水準となっている。



■長期的姿勢で人材確保
 50年単位の長期的な変遷では、賃金水準や労働時間、労働災害発生率などさまざまな分野において、3K業種と言われた時代からは労働条件が格段に改善されてきた。しかし、これまでの建設業界は、業況が好況になれば技能労働者が不足して人材確保に取り組み、一転して業況が悪化すれば取り組みの勢いが失われるといったことを繰り返してきており、人材確保・育成についての本質的な解決はなされていない。

 同研究所は調査結果を「建設業の技能労働者の確保・育成は、短期的な景況やコロナ禍等に左右されずに、産業の将来を見据えて長期的に業界を挙げて取り組んでいくことが必要だ」と締めくくっている。



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