【気流解析で新たな感染症対策】アドバンスドナレッジ研究所の気流シミュレーションソフト | 建設通信新聞Digital

5月4日 土曜日

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【気流解析で新たな感染症対策】アドバンスドナレッジ研究所の気流シミュレーションソフト

 コロナ禍が長期化し、建物や室内の環境設計が重要になっている。その中でも注目されるのが“換気設計”の概念だ。アドバンスドナレッジ研究所が提供する気流シミュレーションソフト「Flow Designer(フローデザイナー)」は、店舗や室内の空気の動きや換気の様子を3次元モデルで可視化し、テーブルやラックなど什器の適切なレイアウトを可能にする換気設計機能を強化している。 気流や温熱環境を可視化するフローデザイナーは、これまで高価な実験機器がなければできなかった屋内外の気流や温熱のシミュレーションを簡単かつ素早く行い、建築から土木、まちづくりへと利用が広がっている。


◆気流の方向で室内の感染リスク変化

室内の換気シミュレーション




 2021年バージョンは新型コロナウイルス感染症対策に有効な換気設計機能を強化し、エアコンの吹出口や吸込口の位置に応じた気流の動きを3次元のアニメーションでビジュアル化する。室内換気の専門家である大学の先生方や建築環境設計支援協会などと連携し、設計の現場でよりシミュレーションを有効活用できるよう、機能強化に向けて共同開発を進めてきた。
 アドバンスドナレッジ研究所の黒岩真也ソリューション技術部長は「人の行動を抑えるだけで3密空間を完全に回避するのは難しい。『密集』『密接』する場面は個人の対策で避けることができても『密閉』に関しては個人の対策では限界があり、建物自体の安全性を向上させる換気設計が重要になる」と強調する。
 海外では、エアコンの気流上にあるテーブルだけに感染者が出たレストランの事例が発表され、感染症対策としてエアコンや換気扇の位置、さらにはテーブルのレイアウトまで注目され始めている。「日本では1時間当たりの空気の入れ替え回数を指導しているが、それだけでは室内の空気質の分布は分からず、リスクがある場合も考えられる。実際は空気の吹出口や吸込口の位置、テーブル配置などで空気が流れる場所ととどまる場所が生じる。レイアウトを検討する際は空気の流れに注意を払う必要がある」と指摘する。

◆パーティションがリスクの要因にも
 ポイントになるのが、空気の滞在時間の指標となる「空気齢」だ。「空気は長く同じ場所に漂うほど感染リスクが高まる。つまり新鮮な空気が届くまでの時間と感染リスクは同じと考えることができる。空気齢は若いほど良い」と話す。フローデザイナーは空気の流れだけではなく空気齢の高低まで見える化でき、リスクの高さを空気齢という数値で定量的に評価しながら、空間づくりに貢献する。
 その上で、感染症対策として普及したパーティションの懸念点を指摘する。「テーブルやデスクに設置するパーティションが密閉空間をつくり出してしまい、むしろ換気を悪くし、感染リスクを高める可能性も考えられる。フローデザイナーでパーティションを立てた室内を再現し、空気齢を解析すると設置前と比べて悪化するケースもある。飛沫の拡散防止や精神的な安心感につながるかもしれないが、換気状況を悪化させないよう過度な空間の分割は避けたほうが良い」と、従来の感染症対策と逆の見方を示す。

◆点群データ、VRを活用した換気設計

点群データを活用した飲食店のシミュレーション


 同社は、フローデザイナーを導入していない設計事務所、建物や飲食店などのオーナーにも手軽に換気設計に取り組んでもらうため、ソフトウェアの開発・販売だけではなく、気流解析の受託サービスも行っている。「空調設備は一度設置すると変更が大変になる。一品生産だからこそ事前にシミュレーションし、効果を見定めることが重要だ。専門家でなくても素早く簡単に理解でき、複数の設計案から、より適切な対策案の選定が可能だ」とメリットを挙げる。
 フローデザイナーはVR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)との連携も優れ、より高度な視覚化技術を使って関係者が情報共有することも可能だ。例えばヘッドマウントディスプレーを装着した複数人が同時にVR空間に入り込み、その中を自由に動きながらインタラクティブに感染リスクや安全性を共有できる。

 さらに、点群データを活用したシミュレーションも手軽になってきた。空間を再現する点群データは高価な機器を必要とするイメージが強いが、スマートフォンのカメラで簡単にスキャニングする無料アプリが登場している。スマートフォンで撮影した動画データをクラウドに上げ、点群データを生成し、フローデザイナーのシミュレーションモデルとして活用できる。「3次元データを手軽に利用できる時代になり、短時間で換気設計を実現する」ことで建物の安全・安心の向上に貢献する。

遠隔地でのVR空間の共有




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