【SNSで命と暮らしを守る ビッグデータで"攻めのBCP】対談/日本総合研究所会長 寺島実郎氏、JX通信社代表取締役 米重 克洋氏 | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【SNSで命と暮らしを守る ビッグデータで“攻めのBCP】対談/日本総合研究所会長 寺島実郎氏、JX通信社代表取締役 米重 克洋氏

 急速に拡大するSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を通じて個人が発信する情報の活用がさまざまな分野で進んでいる。災害が発生した周辺で働く作業員や周辺住民の安全確保などにも大いに活用できる。こうした点に着目し、膨大なビッグデータから信頼できるリスク情報を選別、抽出しユーザーに提供する「FASTALERT(ファストアラート)」システムが、いま、建設現場のほか、テレビや新聞などさまざまなメディアで活用されている。ここでは、医療・防災産業創生協議会を立ち上げた一般財団法人日本総合研究所の寺島実郎会長と、FASTALERTを開発、運営しているJX通信社の米重克洋代表取締役に、命と暮らしを災害から守るために、SNSなどを使ったサービスの展望などを語ってもらった。


日本総合研究所会長 寺島実郎氏(左)、JX通信社代表取締役 米重克洋氏(右)




--日本の災害対応力の現状と課題は
◆社会基盤の強化へパラダイムシフト
寺島 頻発する大規模自然災害やコロナ禍により、日本の社会基盤のもろさ、政治システムの劣化が露呈されました。日本は戦後復興の名のもとに早期に国力を再建するため、鉄鋼、自動車、エレクトロニクスなどの基幹産業を育て、工業生産力を高める道をひた走ってきました。一方で、生産性の低い物資は海外からの輸入に大きく依存する構造を生み出しました。いま、その成長モデルの皮肉な結末を見る思いです。
今回のコロナ禍で、いち時期はマスクさえ十分に国民の手に届かない状況に陥りました。日本でつくるとコストがかかりすぎるものは外国で生産するという行き過ぎた海外依存が招いた結末です。問題が起きると各国とも自国優先になり、物資の囲い込みが始まります。こうした状況を踏まえると、今後は効率化の論理だけではなく、国民の安全・安心を担保する新しい産業のあり方を考える必要があります。
新型コロナウイルスのパンデミックに加え、洪水、台風など昨今の気候変動が引き起こす災害も拡大しています。大規模地震も多発する傾向にあるため、異業種連携を進め、豊かさを求める産業からのパラダイムシフトを急がないといけません。コロナ禍の体験を踏まえ、日本総合研究所は、日本医師会、日本歯科医師会、土木学会等とともに民間企業が参画する「医療・防災産業創生協議会」を立ち上げました。高機能・多目的コンテナと管理運用システムを開発し、全国の「防災道の駅」などへの展開を通じて、平時の地域力と有事の災害対応力を高めるプロジェクトを進めています。こうした活動を展開するにあたりFASTALERTなども活用できるでしょう。


AIで抽出したSNSをリアルタイムで提供するFASTALERT



--FASTALERTとはどのようなサービスですか
◆SNSからリスク情報を抽出、提供
米重 当社は、SNS発のリスク情報を配信するFASTALERTを手掛ける報道ベンチャーです。一般の人が発信するSNSからさまざまな災害現場の投稿を集め、ニュース報道より早いタイミングで緊急事態の発生情報や現場の状況などを発信するサービスを提供しています。
「1億総カメラマン」となって投稿されるビッグデータから、報道価値の高いリスク情報をAIで超高速で検知することができます。特定の場所に焦点を絞り、データマイニングして周辺で起きている災害、事故、事件などの情報を発生から数分のうちに抽出し、お客さまに提供しています。情報の早さがBCP(事業継続計画)の初動を左右するため、報道機関や官公庁、インフラ企業のほか建設、物流、不動産などに「攻めのBCP」として活用いただいています。
私は学生時代からいわゆる“ニュースおたく”で報道の仕組みに興味があり、大学在学中の2008年に起業しました。最初は選挙の集計調査などを新聞社やテレビ局と行っていたのですが、報道の現場では事件、事故が起きると記者が数時間おきに警察に情報を取りにいく必要があり、労働集約コストの重さに課題を感じていました。人海戦術で行うべき仕事を機械化することで、効率化できると考えました。

◆熱海の地すべり映像を数分で配信
一方、SNSが普及したことで、報道各社はSNSの膨大な情報を人海戦術でチェックする部署をつくりましたが、それにはものすごい労力がかかっていました。その業務を代替する機能の必要性を感じ、FASTALERTを開発しました。情報収集速度の向上と大幅な省力化につながります。例えば7月に発生した熱海の大規模土砂災害でも発生から数分後に地すべり映像を各社に配信しました。
寺島 あの映像はまさに現場にいる人だけが撮れる映像や画像であり、カメラマンが後から行って撮れるものではありません。昔のテレビ局は一般視聴者の売り込み情報を活用して災害映像などを流していましたが、いまはFASTALERTがその役割を担っていますね。
米重 SNSを活用した報道スタイルは、もともと中東のテレビ局アルジャジーラが2000年代初頭に始めました。その後、SNSにAI(人工知能)を導入した報道が2000年代後半に始まります。日本では当社が16年にFASTALERTを提供開始し、一般社団法人共同通信を皮切りに導入が始まりました。テレビ局はNHKの導入以降、キー局全体で採用されています。
寺島 SNSを活用した報道のキーワードは情報のトレーサビリティーだと感じます。同じような仕組みとしてドライブレコーダーがあり、交通事故が起きる瞬間を撮影した映像がニュースに流れています。

--日本のBCPの現状をどう捉えますか
米重 マスメディアの放送時間には限りがあり、最大公約数の情報しか発信できません。本来はもっと欲しい情報があるのでしょうが、現実的には難しい状況です。FASTALERTを使えば、SNSなどのビッグデータを通じて知りたい場所の浸水状況などリアルな情報を数分で把握できます。

◆3D都市モデル衛星画像と連携
寺島 情報ネットワーク環境は大きく様変わりしています。阪神・淡路大震災が発生した1995年は携帯電話が普及し始めたころですが、現在は人口の1.5倍の携帯電話やスマートフォンが普及しています。SNSにより、情報ネットワーク環境は劇的に変化しました。いまでは電源さえ確保できていれば災害時に情報ネットワークがつながるようになり、携帯電話やスマートフォンによる安否確認が可能になってきています。
コンビニエンスストアも防災インフラの役割を果たしています。災害時も流通システムが機能し、被災地にお弁当などが届く高度なBCPを構築しています。その効果は、防災マニュアルから行政による炊き出しについての記述がなくなるほどです。
わが国にはBCPの成功体験が蓄積しており、進化しています。そこに光りを当てることがわれわれの役割であり、医療・防災産業創生協議会も災害先進国である日本の優れたコンテンツを世界に発信する予定です。FASTALERTにも大きく期待しています。

--これからの建設業のあるべき姿とは
寺島 例えば、日本建設業連合会は女性の活躍をPRするため、けんせつ小町の活動を展開しています。これをテコに女性を中心にしたタスクフォースをつくり、SNSを活用した防災情報システムを構築するのもよいでしょう。新技術の導入にあたってはパラダイムシフトが不可欠です。大上段に構えて説明するよりも、けんせつ小町がやわらかく説明する方が多くの人に伝わります。建設業の女性活躍にもつながります。
米重 FASTALERTの活用効果を高めるため、災害データを国土交通省が提供する「Project PLATEAU(プラトー)」の3次元都市モデル上で可視化する実証実験を開始しました。また宇宙ベンチャーのアクセルスペースと連携し、FASTALERTで検知した災害発生個所を次世代地球観測プラットフォーム「AxelGlobe」の速報衛星写真で撮影する試行も行っています。
今後はSNSやライブカメラ、衛星画像などのビッグデータを活用し、水害や地震などの災害を3次元都市モデルに可視化し、被害規模や影響範囲をリアルタイムに分析するなど、BCPに寄与する開発を進めたいと思います。

◆大きなビジネスへの発展に期待
寺島 新しいビジネスにはラストワンマイルが大切です。“最後の10センチ”まで掘り込める人が、ビジネスの世界で成功しています。JX通信社のビジネスも大きく発展してほしいと思います。FASTALERTが提供する情報は単に個社のビジネスの問題ではなく、日本人の安全・安心を守る上でも大事だからです。それをやり遂げることで、とても大きな社会貢献になると思います。
情報は、「情」(なさけ)に「報」(むくいる)と書きます。インターネットやSNSからさまざまな情報を取得できるからこそ、無味乾燥な情報を扱うと発展は難しいでしょう。FASTALERTはリアルタイムに取得するリスク情報が生身の人間にどのような意味を持つかが分かるため、人の心をつかめると思います。リアルな人の心理に向き合うサービスは爆発的な成功を収めます。今後も人間の表情を持つビジネスモデルとして発展することを期待しています。

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