【BIM/CIM改革者たち】楽しむモデリングが出発点 美保テクノス 池田 みゆき氏 | 建設通信新聞Digital

4月30日 火曜日

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【BIM/CIM改革者たち】楽しむモデリングが出発点 美保テクノス 池田 みゆき氏

「わたしのように3次元の感動を得ることができれば、きっとBIM/CIMの理解も広がるはず」と語るのは美保テクノス(鳥取市)でICT推進室に所属する池田みゆきさん。3次元モデリング歴はまだ7年だが、社内で広がり始めたICT活用工事の支え役として現場の信頼は厚い。2023年度からのBIM/CIM原則化を背景に、地域建設業の3次元対応が拡大しつつある中で「3次元の敷居はそれほど高くない。ぜひ一歩踏み出してほしい」と呼び掛ける。

美保テクノスの池田みゆき氏


 島根県の建設コンサルタントで技術補助員として働いていた池田さんが同社に転職したのは15年。現場に常駐しながら図面や検査書類を手伝う中で、上司から何かやりたいことはないかと声がかかった。毎日同じことばかりやってもつまらない。「3次元にチャレンジしてみたい」と素直に気持ちを伝えた。16年3月のことだ。

 その年に同社は鳥取県から国道181号(岸本バイパス)改良工事(7工区)を受注し、県初のICT活用に取り組むことを決めた。現場では協力会社と連携してICTプロジェクトチームが発足し、そのメンバーに抜擢された。チャレンジしたい気持ちは強くあったが、学生時代に土木を学んだ訳でもなく、3次元ツールに触れたことさえなかった。チーム内にもICT活用の経験者は誰もいない。「不安しかなかった」と振り返る。

◆社内外でサポートを得、プロジェクトにまい進
 現場入りと同時に、大塚商会の全面サポートを受けながらオートデスクのBIM/CIMソフト『Civil 3D』を使い、モデリングに挑む日々が続いた。「当初は図面を見ても現場のことを全くイメージできず、作業しながら本当にこれでいいのだろうかと心配が先に立った。現場でICT建機が無事に動くのを見て、初めてほっとした。その時に得た感動はいまも忘れることはない」

 社内では鳥取初のICT工事をきっかけにICT推進プロジェクトが発足した。既に建築部門ではBIMを先行して取り組んでおり、土木部門も後を追う形で、3次元化にかじを切った。プロジェクトメンバーは9人。丁張り作業がなくなれば安全靴はいらないと『現場代理人は革靴とジャケットで現場をプロデュースさせる』を合言葉に、現場へのICT推進がスタートした。現在は推進プロジェクトを発展解消し、ICT推進室が社内のけん引役になっている。

鳥取県初のICT活用工事


 推進室で主に3次元モデリングを担当している池田さんだが、「設計にも挑戦し、少しでも現場を知っていきたい」との思いがある。20年には土木施工管理技士の1級も取得した。「モデリングの楽しさは作業をしながら現場が見えてくる部分。自分が描いたデータがどう使われるかをイメージできるだけで楽しさの度合いも違ってくる」

◆新たなリクワイヤメントのもと、さまざまな取り組みにチャレンジ
 鳥取のICTトップランナーを目指す同社では現在、国土交通省直轄工事3件と鳥取県発注工事1件のICT活用工事が進行中だ。9月に完了検査を終えた中国地方整備局の日野川岸本地区外河道整備工事では護岸ブロックの配置図を作成し、その統合モデルを若手職員や作業員との打ち合わせに活用した。「革靴でも現場に立てるくらい整然としたきれいな状態で現場作業を行うことができた」と考えている。

 国土交通省のBIM/CIM原則適用が23年度に前倒しされ、地方建設業は今後どう向き合うべきか。「正直、進展のスピードに地方建設業の多くはなかなかついて行けてない状態ではないでしょうか」と危惧(きぐ)する。8月にBIM/CIM活用工事を受注した同社では、ICT推進室と現場が事前の打ち合わせを進めているが、21年度はBIM/CIMの要求事項(リクワイヤメント)が見直され、「現場でさまざまなチャレンジができるようになった半面、具体的に何をすべきか判断しにくい状況にもなった」と感じている。

中国地方整備局でのICT活用工事


 地方建設業にとっては日々の仕事に追われるため、3次元モデリングに対応できる人材の確保も課題の1つだ。池田さんは「楽しんでモデリングできる環境づくりが出発点」と考えている。「最初にモデリングに取り組んだ際、図面のことが分からず、不安でいっぱいだった。図面の中身が少しずつ理解できるようになると、モデリングは俄然楽しくなる。わたしの目標はモデリングスキルを磨くことより、技術者として成長すること」と、しっかりと前を向いている。



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