【建設業界に広がるLiDARセンサー】ワイクウーデザインの桑山社長に聞くメタバースの未来 | 建設通信新聞Digital

4月26日 金曜日

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【建設業界に広がるLiDARセンサー】ワイクウーデザインの桑山社長に聞くメタバースの未来


ICT技術の向上・普及に伴い3Dスキャンの精度が向上している。米アップル社のiPhone13Proなどが搭載する「LiDAR(レーザー式測距装置)センサー」は、精度の高い3Dスキャニングが可能で携帯性や汎用性も高いため、建設業界内でも愛好者が増えている。その最前線で活躍する第一人者、ワイクウーデザイン(三重県名張市)の桑山優樹社長に、フォトグラメトリやBIMで進化する建設DX(デジタルトランスフォーメーション)、メタバース(仮想空間)の未来について話を聞いた。



◆最新技術で守る「日本の瓦文化」
桑山社長は「LiDARは使い方次第。その技術を応用すれば、社会課題を解決に導く大きな可能性を秘めている。建設DXを加速する要素にもなるだろう」と語る。

同社は、神社や仏閣などの屋根瓦施工を手掛ける桑山瓦のBIM部として2016年に発足した。その後、中部や関西で大手ゼネコンが手掛ける物件を中心に、BIM関連の業務を受注している。

「瓦のニーズは縮小傾向にある。しかし、伝統建築には不可欠な存在だ。これまでの経験を生かしつつ事業を拡大させたい」と考え、11年から試行錯誤を重ねてきた。

そして、ArchicadやBIMなどの技術を学ぶ必要性を感じ、中央工学校OSAKAに入学した。設計事務所勤務を経て16年にワイクウーデザインを設立する。BIMを始め、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)、MR(複合現実)などの最新技術を建設現場に役立てる事業を展開。関係者同士が遠く離れた場所にいてもVRで細やかな打ち合わせができるマルチプレイVRの新システム「双方向視覚共有VR」や、現場のAR情報をオフィスなどに届けることができる「ロケーションAR・VR双方向視覚共有」などを自社開発した。

◆新しい観光を構築
桑山社長はメタバースの進展に注目しており、「複数の人たちが交わり、SDGs(持続可能な開発目標)にも資する状態が私の抱くメタバースの理想像だ」と語る。具体的には「コロナ禍で疲弊する観光業界の下支えをしたい。高齢者や体が不自由な方、海外に暮らしている方など観光地に行けない人が、自宅にいながら魅力的な城郭や寺社などを訪問し、詳しく調査する感覚を味わうってもらうことができるシステムを開発している」という。

同社は、この新しいシステム「史跡復元BIM」の普及を、ことしの重点事業に掲げる。BIMはCADで作成したデータをもとに起こすことが一般的だが、「この史跡復元BIMでは、BIMだけで総合資料データを作成し、写真や図面などの副次的な資料を盛り込むことも目指している」と話す。「一般的に知られていない調査資料などをアプリで分かりやすくガイドできれば、多くの人に『新しい観光』を楽しんでもらえる」と期待を込める。

「史跡復元BIM」で作成した夏見廃寺跡(正面から)


そんな事業立ち上げの原動力となったのは、同社の近くにある夏見廃寺跡(なつみはいじあと)だった。新型コロナウイルス感染症が流行する前、桑山社長は1人の観光客に、その概要を教えてほしいと聞かれたという。「建物は平安時代に焼失し、現存していない。しかし、研究者らの手によって、発掘調査で見つかった瓦の量から復元図面が作成されている。この資料をもとに建物データを作成した」という。

このように、史跡復元BIMでは現存する建物はもちろん、失われた建物も仮想空間上に復元可能なほか、付随する情報を網羅することができる。

◆個人でも高精度な3Dスキャンが可能
桑山社長は「史跡には、いまだ解明されていない情報が多い。新たな発見を組み込むことができる『基礎』を、BIMで構築したい」と語る。そこでかぎを握るのが、iPhoneのLiDARセンサーだ。「LiDARを搭載したiPhoneやiPadの登場によって、個人でも精度の高い3Dスキャンやフォトグラメトリが可能になった。今後、本格展開する史跡復元BIMでも重要な存在になる」と話す。

同社では、この技術をリノベーション案件などに活用している。図面のない現場でもBIMデータを構築できるため、工期短縮や打ち合わせなどに役立っているという。

桑山社長は「基本的な仕組みを学び経験を重ねていけば、高精度なスキャンデータを作成できる」と信じ、日夜、技術の向上に励んでいる。「失敗が技術の向上につながる。課題を見直し、試行錯誤してほしい」と後進に呼び掛ける。



桑山優樹(くわやま・ゆうき)氏。2015年3月中央工学校OSAKA卒業。同年4月からアルモ設計で研さんを積む。その後、16年にワイクウーデザインを立ち上げた。商品・技術などの開発のほか、全国の企業向けにアドバイザリー業務などを手掛けつつ、ウェブセミナーなどのイベントも定期的に開いている。伊勢市出身。1984年11月18日生まれ、37歳。

*2022年1月12日に速報版独自記事で配信した記事を再編集し、公開しています。



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