【記念シリーズ・横浜市公共建築100周年】第5回(上) 横浜美術館 「みる・つくる・まなぶ」を具現 | 建設通信新聞Digital

5月6日 月曜日

横浜市公共建築100年

【記念シリーズ・横浜市公共建築100周年】第5回(上) 横浜美術館 「みる・つくる・まなぶ」を具現

©村井修

横浜美術館は、多様な市民のニーズに応えた「開かれた美術館」として、1989年11月に開館した。設計は日本を代表する建築家である丹下健三が担当。みなとみらい21地区に完成した最初の恒久施設であり、その後のまちづくりを先導する役割も担ってきた。現在進めている大規模改修では、老朽化した設備の更新やバリアフリー化とともに、成長から成熟へと向かう街との関係性をより強めていく。改修設計を手掛ける丹下都市建築設計の丹下憲孝会長に、その狙いや意義とともに、親子2代にわたって設計に携わる思いを聞いた。

【丹下都市建築設計会長 丹下 憲孝氏/街を先導する「開かれた美術館」】
前面のグランモール公園中央から海に至る緑(植栽)と水で整備された歩行者空間。この「緑と水の都市軸」を受け止めるように、美術館は中央部を高く、左右にゆったりと広がったシンメトリーの重厚な全体構成としている。

「みなとみらいの文化ゾーンの中心としてのあるべき姿とは何か。当時まだなにもなかったみなとみらいに、この美術館を文化の中心として、総合的なまちづくりの“核”である部分はこうあるべきだというものを示す。その使命を感じて設計したのだと記憶している」との考えを示す。

改修現場での永山氏(左)と丹下氏


国際港湾都市にふさわしい世界に開かれた美術交流の場であると同時に市民や芸術家に創造活動の場を提供する。この基本理念に基づき、構想段階で市側から提唱されたのが当時としては斬新な「体験型」の美術館だ。使いやすい美術館としての機能と文化的シンボル、モニュメントとしての外観が両立する施設も求められた。

都市軸に合わせる形で高層化した半円形の中央部には、美術館の象徴である収蔵庫を積み上げることで「アートに対するリスペクト」も込めたという。同時に、「何もないところから街ができてくる。そのワクワク感を含めて、成長する、育っていく、街の建設プロセスを市民の皆さんにも見てもらえるような展望台をつくろう」と、最上階(8階)に展望ギャラリーを設けたのも特色といえる。

展望ギャラリーから見るみなとみらい21地区


収蔵庫の足元には、この美術館最大の特徴となる2層吹き抜けの大空間「グランドギャラリー」がある。長さ100m、高さ20mの自然光が差し込む明るい空間には階段状のプラザが設けられ、各種イベントに対応する。これを介して上部には7つの展示室がまとめられ、下部には情報提供コーナー、会議室、レクチャーホール、ミュージアム・ショップなどを配した。この収蔵・展示スペースの左右には図書館・レストラン棟とアトリエ棟を配置。「みる・つくる・まなぶ」を建物が表象する形としている。「市の皆さんの思いや斬新なアイデアをいかにして都市計画家であり建築家として実現するか。その解答がこの形だった」とも。

海外の文化をいち早く取り入れて発展してきた国際港湾都市らしい一歩先をいく先進性とそれを具現化する建築家の構想力。それが、わが国最大規模となる現代アートの国際展「横浜トリエンナーレ」などの活動に結実していく。2011年以降はそのメイン会場として、誰もが多様な表現に触れる機会を提供し、新たな価値観や文化を世界に発信。現代アートを通じて世界の芸術家の活動の場、市民との交流の場として発展し、国内外から注目され評価される美術館となっている。(つづく)



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