【建設ディレクターがつくり出す可能性】思いつなぐ新たな職域 建設ディレクター協会理事長 新井 恭子氏 | 建設通信新聞Digital

4月25日 木曜日

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【建設ディレクターがつくり出す可能性】思いつなぐ新たな職域 建設ディレクター協会理事長 新井 恭子氏

 全国の地域建設企業などで導入が活発になってきた「建設ディレクター」。ICTを活用してオフィスから工事書類作成などの現場業務を支援する新たな職域で、働き方改革という言葉が叫ばれる前から建設ディレクター協会が育成を進めてきた。長きにわたり建設業に関わってきた同協会の新井恭子理事長は「建設ディレクターは当初の想像以上に多様な働き方を実現している」と話す。

建設ディレクター協会理事長 新井氏

 協会が認定した建設ディレクターは46都道府県で736人。このうち女性比率は67%で、20-30代が65%を占める。完全リモートやセカンドキャリアとして活躍している人も多い。
 協会の設立は2017年6月。新井理事長が経営する京都サンダーとしては09年から技術者向けの勉強会を開催。14年からは建設未来京都フォーラムとして、現場の課題解決に向けて活動を続けてきた。
 コロナ禍の中、21年4月に国立京都国際会館で開いた「建設ディレクターコミュニケーションセンターイベント」には、オンラインを含め全国各地から約720人が参加するなど関心の高さがうかがえた。新井理事長は「子育てなどで京都に出向くことができない女性も、積極的に参加してくれたことがうれしい」と明かす。イベント内で開いた国土交通省や自治体関係者を交えた成果発表では、最優先課題である生産性向上に向けて、建設ディレクターの取り組みが改めて注目を浴びた。

◆助けたくても助けられない
 現場技術者の長時間労働を削減するといっても、直行直帰や現場常駐などもあり、実際の仕事ぶりは店社からは見えづらい。専門的スキルが必要な仕事も多く、事務方が助けたくても助けられない。技術者は仕事内容を共有したくても落ち着いて伝える時間がない。そんな現場の悩みに応えたのが建設ディレクターだ。
 同協会が現場技術者を対象に実施したアンケートでは、書類業務に6割、月100時間を費やしていることが分かった。このうちの2割は安全書類などすぐにバックオフィスに引き渡せる業務が占め、書類業務全体の約6割をバックオフィスに移管できることも分かった。
 まずはこうした書類業務を可視化し、バックオフィスと分業で取り組む態勢を整える。建設ディレクターは専門スキルを身に付けて、安全・品質・利益に直結するコア業務にも関わる。遠隔臨場などのICTも活用する。こうして従来の役割分担や職域の枠を超えて、女性を含めた多様な人材が建設業で働く機会を創出した。
 実際に従業員43人のうち建設ディレクター3人を導入して約60%の書類業務を移管した結果、月平均35時間の残業時間削減を達成できたという。
 企業の採用活動にも変化をもたらしている。3年間採用が決まらなかった企業が建設ディレクターを導入したことで、新卒3人を採用できたという喜びの声もあった。職種と職域が明確でキャリアパスを描きやすくなった結果20-30代の希望者も増えた。

◆チームで課題解決ノウハウを知財化
 協会は、建設ディレクターを導入する際のサポートも始めている。導入までたどり着けない企業や、導入後に現場との連携方法に悩んでいる企業は多い。8月から提供を始めた「TEAM SWITCH」は導入前後の課題を解決するプログラムだ。技術者の業務範囲の再設定や役割を明確にすることで、建設ディレクターの働き方を定着させるだけでなく、属人化していたノウハウを会社として知財化することも狙う。

◆企業経営に好循環生み出す
 新井理事長は、「仕事を任せて育成にもつなげたい技術者、なんとか技術者を助けたいと悩む経営者と事務職。それぞれの思いを結びたい」と思いを語る。建設ディレクターは企業経営に好循環を生み出す新たな職域として、これからも建設業の可能性を広げていく。



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