We are storyteller(物語作家)--。日本有数のジオラマ・模型製作会社、ポポプロ社長の長澤隆之氏は、企業理念をそう話し、心に残るもの、何度見ても飽きないものをこれからもつくっていくと、ストーリーの重要性を強調する。同社は、鉄道模型販売店チェーンの最大手、ポポンデッタグループの一員としてディープなプロデューサー陣のノウハウ蓄積によって、鉄道ファンには圧倒的な人気を誇っている。長澤社長は「今後、これまでのスキルをベースに、建築家や建設企業とのコラボレーション、町おこしなどの分野で本格的な展開を図っていく」と事業の拡張に意欲的だ。元大手玩具製造業役員の経歴を持つ長澤社長に、ユニークな発想によるこれからの「物語」などを聞いた。
◆建築家・建設企業とコラボ/町おこし分野でも本格的展開
さらに続けて「ジオラマ製作各社が緻密な作り込みをする中にあって、ポポプロはストーリーテラーであることを常に意識している。ある意味、建築家と同じ。家をつくるときにその土地の文脈や家族構成などを基に建築家が空間を考えるように、僕らも空間作家だと思っている。人が求めているものを文字や画像、動画などではなく立体模型で分かりやすく見せることがジオラマの役割。そこに感動してもらったり印象に残るものをどうプラスアルファしていくかが、われわれのストーリーテラーとしての真骨頂になる」と語る。鉄道で培ったディープなプロデュースとは、まさにそのスキルが幾層にも積み重なっているということだ。
数多くの法人、個人に納品した中でも最大規模は横浜市内の京急ミュージアムの「京急ラインジオラマ」だ。大きさは約12m×4m。京急沿線を再現したもので、実物大の800形電車運転台でカメラ付き模型列車が運転できる。鉄道ファンだけではなく、幅広い世代の人々でにぎわっている。ほかにも東京都内の伊藤忠エネクス本社ロビーのエコとサステナブルを象徴するまち、同じく都内のホテルメトロポリタン丸ノ内27階ロビーの東京都心の情景(東京駅、レインボーブリッジ、羽田空港ほか)など、博物館クラスからミニジオラマまで多様な実績を重ねている。
長澤社長はこうした事例について「おかげさまで、企業を象徴する一つのアイデンティティーとして、CI(コーポレート・アイデンティティー)のような位置付けができていると言っていただくことも多く、ストーリーテラーとしての役割を果たせているのかなと思っている」と感謝の気持ちを述べる。製作工房は、東京・秋葉原本社2カ所、世田谷1カ所の3工房体制を取っており、企画から納品・設置までワンストップで対応している。
今後の展開を長澤社長はこう話す。
「建築家の方や建設企業とのコラボレーション、市町村の町おこしなど、まちづくりでまだまだいろいろチャレンジをしていこうと思っている。例えば、防災や下水道などがある。防災は、洪水や津波の発生の際、人出の多い場所で水位を一目で確認できたり、蛇行する河川を真っ直ぐに整備した場合の水流をLEDで表現するなどのジオラマが考えられる。下水道は地上と地下部分を断面で可視化することで、下水道の役割を分かりやすく一般の人に伝えられるのではないだろうか。再開発事業などでは、施工に入る前の地権者へのプレゼンテーションで周辺を含めた事業概要を俯瞰(ふかん)して表現できると思う。技術的には、LEDを使った照明の制御を得意としており、ライトアップしたまちのジオラマなどで、照明タッチパネル方式を独自開発している」
ジオラマが高価なことについては「単価が1㎡単位で、この中に150分の1、80分の1などの景色をつくるのがジオラマ。そこにストーリーテラーとしてのクリエーティビティーを可能な限り入れ込み、ほとんどが手づくりとなる。料理の松竹梅に例えると、ジオラマの本領が発揮されたものは松と言える。訴求性を緻密な形にすることで、人に足を運んでもらえる。その価値を見いだしていただければと思う」と述べる。
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