【廃棄食材から「食べられるセメント」】コンクリの4倍もの曲げ強度/fabulaCEO 町田紘太氏 | 建設通信新聞Digital

4月30日 火曜日

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【廃棄食材から「食べられるセメント」】コンクリの4倍もの曲げ強度/fabulaCEO 町田紘太氏

(まちだ・こうた)
幼少期をオランダで過ごし、環境問題に興味を持つ。東大生産技術研究所酒井研究室で、卒業研究として新素材を開発した。2021年10月に「あらゆるゴミの価値化」を目指しfabulaを設立。東大工学部社会基盤学科卒。1992年生まれ。

 東大発ベンチャーのfabula(ファーブラ、東京都大田区)が実用化を進める新素材「食べられるセメント」が注目を集めている。ミカンの皮や抽出後のコーヒーかすなど、廃棄食材を乾燥させて粉砕・熱圧縮することで建材の材料にしている。食品ロスや環境負荷低減という社会課題を解決するとともに、コンクリートの4倍近い最高曲げ強度を持つため、建材への活用も期待される。町田紘太代表取締役CEOに聞いた。 もともとは指導教官だった酒井雄也東大生産技術研究所准教授が、コンクリートがれきと廃木材を粉砕して混合し、ホットプレス(加熱しつつ圧縮成形)することで、コンクリートと木材を融合した新たな土木・建築材料「ボタニカルコンクリート」を開発した。この技術をベースとし、教え子の町田氏も開発に加わった。「食べられる建材があれば面白い」というシンプルな発想で食品廃棄物にも応用した。両氏はこれまで米、コーヒー、伊予柑、茶葉、マンゴー、パイナップル、トマト、リンゴ、タマネギ、葉物野菜など60種以上の食品廃棄物から新素材をつくることに成功した。
 2021年10月には町田氏を中心に幼なじみとファーブラを立ち上げ、社会実装を目指す。ラテン語で「物語」を意味するファーブラの社名には、「ゴミ処理のイメージを変える物語をつくる」という意を込めた。そこには「単なる無害化や処理といった文脈に乗らない、ゴミからストーリー性のあるものをつくりたい」という思いがある。
 その工程はシンプルだ。食品廃棄物を乾燥・粉砕した後の粉末を型枠に入れ、熱と圧力を加えて成形する。食材に含まれる糖分と食物繊維のバランスによって強度は異なり、「カボチャの皮は見た目に反して強度が弱く、意外にも白菜の外側の葉が最も強い」と説明する。その特性に加えて、温度と圧力を調整すれば、あらゆる廃棄食材を求める強度に仕上げることが可能になるという。強度が弱い食材に強い食材を混ぜることで強度を高めることもできる。「成形の条件を決めるのは大変だが、シンプルであっても奥が深い」と語る。

食品廃棄物を乾燥させて粉末状にし、型枠に入れて熱圧縮する。その工程は実にシンプル


◆近く建材への活用も
 最大の特長は、白菜の廃棄物でつくった素材により、一般的なコンクリートの4倍近い曲げ強度を実現したことだ。食器やインテリア系の家具の素材として使うだけでなく、厚さ5mmで30kgの荷重に耐える特長を生かし、建材としての応用も視野に入れている。「食材をいったん粉末にしてから成形するため、型枠さえあれば基本的にどの形でもつくることができ、既存の設備で再現できる」と強みを語る。
 町田氏が開発当初から思い描くのは、利用者の感性に訴えかける空間づくりだ。原料由来の独特の香りや色を残すことができるため、その場にしかない立体感や風合いを表現するにはうってつけの素材といえる。例えば、画一的になってしまう仮設住宅の内装材などに使えば、入居者に癒やしの効果をもたらす。茶葉を使った和の印象を与える空間づくりも可能となる。
 実際に、自店舗で扱うコーヒーかすを使ったタイルを店の化粧材や什器などに使用したいという相談があった。「加工性が木に近く、切削して利用しやすい形にできる。コーヒーの香りを生かして、他店にはない独自性とストーリー性を持つお店にしてみたらどうか。介護施設にも、長年飲み続けてきたコーヒーかすを採り入れれば、自宅で過ごした日常を思い出すことができていいかもしれない」

◆時間が経てば土に、建築現場の廃棄物削減にも一役
 建築物に実装した例はまだないが、25年大阪・関西万博会場内のギャラリーが、その初弾プロジェクトになりそうだ。どの食品廃棄物を使うかも含めて、設計を担当するteco(東京都台東区)と実現に向けて検討を進めている。
 イベントのためにつくった施設の会期終了後の活用にも課題がある。生分解性を持つ食品セメントの特性を生かして「時間が経つと土に還る建築が実現できれば面白い」と考える。建築現場の廃棄物削減という課題解決にも一役買いそうだ。

◆今後の課題は耐水性
 その一方で、建築物に求められる耐久性と耐水性はどうしてもトレードオフの関係になってしまう。「屋外で使用する場合は木材用の防腐剤や耐水材を塗る必要があるが、自然由来の食材や漆を使って耐水性・耐久性を上げる必要がある」と今後の課題を指摘する。100%天然由来だからこそ、「将来的には食べられることも視野に入れて研究している。災害時の避難所の仮設住宅をこの素材で建て、非常時に家を食べて食料に使うことができるかもしれない」と話す。
 「多くの方にこの新素材を認知してもらい、当たり前の選択肢の一つにしていく。家からオフィスビル、舗装、都市といったあらゆるものがゴミからつくられる社会とするため貢献していきたい」



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