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【45°の視線】建築史家・建築批評家 五十嵐太郎氏 寄稿 都市への新しいモノの見方

最終更新 | 2023/03/16 10:25

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◆街がミュージアムのように立ち現れる

 建築を専門とする人ならば、都市の観察の方法が一般人と異なることは自明だろう。ただの街の風景として受容するのではなく、個別の建築に対する解像度が高いことによって、見え方が全然違うからだ。従って、建築ガイドやイケフェス大阪(生きた建築ミュージアム大阪)のような建築公開のイベントなどは、一般人にも、専門家の視点を伝える機会となっている。そう、ただのビルに見えていたものも、設計の意図を持った建築家の作品に変わり、街はミュージアムのように、立ち現れるのだ。

 もちろん、都市を形成するのは、有名な建築家による作品だけではない。1970年代のロバート・ヴェンチューリらによるラスベガスの看板分析、80年代の藤森照信らの路上観察学、90年代のユニークな複合施設をリサーチした貝島桃代らの「メイド・イン・トーキョー」、2000年代の中沢新一の「アースダイバー」や皆川典久らの東京スリバチ学会など、それぞれの時代に新しいモノの見方が出現している。

 興味深いのは、これらがモダニズムを乗り越える試みの一つであると同時に、1970-80年代に記号論・意味論的な視点だったものが、90年代にプログラム論になり、ゼロ年代以降には身体・地形的なアプローチにシフトしていることだ。廃虚や工場、あるいはテクノスケープへの関心も、サブカルチャー的に広がり、建築の専門ではない分野から、はっとさせられるような気付きをもたらしている。

 文筆家であり、ラジオのパーソナリティーも務める女優の石山蓮華の著作『電線の恋人』(平凡社、2022年)は新鮮な内容だった。いつしか電線が好きになり、それを深く考察し、さまざまな背景を調べたものである。電線は寡黙すぎて誤解されがちだから、自らが「電線の恋人」となって代わりにその良さを語るのだという。本書は彼女が撮影した写真を収録し、分類も試みている。特に興味を持ったのは、タイの驚くべき電線の数々だった。

 ちょうどこの本を読んだ直後、10年ぶりにバンコクを訪れ、近年、デザインが盛り上がっているショッピング・モール群を回っていたが、やはり電線も気になる。王宮や伝統的な寺院、再開発されたエリアでは、あまり目立たないが、安宿が多いカオサン通りの周辺、飲食街、観光地ではない場所だと、もの凄いボリュームで巻かれた電線に遭遇する。複雑さや密度において、日本よりも過激だ。電柱と電柱の間にぶら下がるのではなく、連続する軒先に膨大な数のケーブルがただ載っかっているだけというケースさえ存在する。電線は醜い景観としてしばしば攻撃されるが、バンコクでは、ダイナミックな都市のエネルギーの発露のように感じられる。

筆者撮影のモレモレ東京(渋谷駅)

筆者撮影のモレモレ東京(浅草駅)

 もう一つ現代美術家による新しい視点を紹介しよう。毛利悠子による「モレモレ東京」のフィールドワークである。筆者は15年に開催された彼女の展覧会で初めて知ったが、いったん覚えると、時々発見し、にやにやしてしまう。モレモレ東京とは何か。それは地下鉄を使う人ならば、必ず無意識に目撃しているはずのものだ。

 駅構内の水漏れが起きる箇所において、おそらく駅員がビニール、チューブ、バケツ、コーンなどを使い、応急処置した工作物を意味する。

 建築で雨漏りが発生すれば、クレームが設計者に寄せられるはずだが、こうした土木だと、どこからどうやって水が侵入しているか探るのが難しく、取りあえず利用者の頭上に水が落ちないようにするための簡単なブリコラージュが発生する。しかも目的がはっきりとした小さなデザインだ。

 つまり、漏水の位置を確認し、近くの柱や壁に誘導して床に落とすのだが、通行人の障害にならないように通り道を工夫しなければならない。

 人は概念として認識すると、それまで視界に入らなかったものが見えるようになる。モレモレ東京もそうだろう。大雨の後、地下鉄を利用したらあちこちに小さな工作物が出現するはずだ。それに出会うとき、都市の楽しみが一つ増える。


(いがらし・たろう)建築史家・建築批評家。東北大大学院教授。あいちトリエンナーレ2013芸術監督、第11回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展日本館コミッショナーを務める。「インポッシブル・アーキテクチャー」「装飾をひもとく~日本橋の建築・再発見~」などの展覧会を監修。第64回芸術選奨文部科学大臣新人賞、18年日本建築学会教育賞(教育貢献)を受賞。『建築の東京』(みすず書房)ほか著書多数。
 

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