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4月29日 月曜日

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【夢の技術「核融合」を産業に】京大発スタートアップ 京都フュージョニアリング社長 長尾昂氏

発電インフラの輸出がゴールの一つ「ゼネコンも積極的に参画を」

長尾氏

 気候危機への対抗策としてCO2削減が叫ばれる中、次世代エネルギーとして注目されるのが夢の技術「核融合」だ。核融合発電は、火力発電のようにCO2を排出することがなく、原子力発電よりも安全に大規模発電ができる「究極のクリーンエネルギー」で、日本がトップレベルの技術やノウハウをもつ。核融合のプラントエンジニアリングをけん引するのは京大発、核融合テックのスタートアップ「京都フュージョニアリング」(東京都千代田区)だ。長尾昂社長は「科学技術として語られがちな領域だが、優れた技術もビジネスに転化できなければ埋もれてしまう。日本のものづくり力を結集し、革新的なエンジニアリングソリューションを世界に提供することで、核融合産業という新たな世界市場を創出したい」と意気込む。

 核融合は、超高温の中で水素などの原子同士が結合し、膨大なエネルギーを放出する反応を指す。太陽を輝かせているエネルギーの源泉でもあることから、核融合は「地上に太陽をつくる」研究ともいわれている。

 原子力発電とは原理が異なる。原子力発電は、ウランなど重い元素の原子核が分裂して複数の原子核になる際に、莫大なエネルギーを放出する。だが、こうした核分裂と比べて、核融合の方がはるかに生み出されるエネルギーが大きい。ウラン燃料の核分裂では1グラム当たり石油1.8t分にすぎないのに対し、核融合炉では燃料1グラム当たり石油8t分のエネルギーを取り出せるといわれる。

 核融合発電は、原発と同様にCO2を排出しないが、利点はそれだけではない。燃料の重水素を海水から取り出せるため、無尽蔵の燃料が地球上に存在することになる。原子力とは根本的に技術が異なることから、高レベルの放射性廃棄物も出さない。仮に高温環境が保てなくなれば自動的に反応は停止し、原理的にメルトダウン(炉心溶融)を起こす危険もない。このため、エネルギー問題と環境問題を抜本的に解決する「究極のエネルギー源」として、世界中の企業が注目している。まさに「ネットゼロへの切り札」と言える。

◆国際協調からビジネスへ
 技術研究の歴史は長く、核融合反応により大きなエネルギーが解放される可能性は1920年代に発見され、40年代にはその実現に向けて学術的研究が始まった。国家間プロジェクトとして、日米、EU(欧州連合)、ロシア、韓国、中国、インドが参画する国際熱核融合実験炉「ITER(イーター)」では、日本も主導的な役割を果たしているが、ネットゼロを目指す有力なエネルギーとして商業利用への機運が高まったことで、米英を中心に多くの核融合スタートアップが登場した。核融合反応自体の実用化に向けて技術競争を繰り広げている。地上で太陽を再現する人類最大のプロジェクトは、想定以上のスピードで進んでいる。

 宇宙産業でいち早く商業活動を後押ししてきた米国では、ビルゲイツ氏ら投資家から資金を集めたコモンウェルス・フュージョン・システムズ(Commonwealth Fusion Systems)が、30年代にも商用の核融合発電所をリリースするロードマップを描いている。

◆唯一無二の立ち位置
 京都フュージョニアリングは、核融合のスタートアップでも唯一無二の立ち位置を取る。核融合反応自体の実用化をビジネスにはしない。あくまでもビジネスの主軸は、核融合熱を取り出す装置などの販売と、コンサルティングや設計受託などのプラントエンジニアリングだからだ。世界中の研究機関と核融合炉を研究開発する民間企業などに、核融合のビジネス化に必須の部品やノウハウを提供している。

核融合炉内で超高温を作り出す上で 不可欠な加熱装置「ジャイロトロン」

 核融合発電は熱を生み出すほか、熱を取り出す、燃料を生み出し再利用するなどの工程も必要になる。熱を生み出す工程で必須となるのが、核融合炉内で超高温を作り出す上で不可欠な加熱装置「ジャイロトロン」だ。ジャイロトロンはマイクロ波の増幅装置で、強力なコイルで磁場を発生させ、電子からマイクロ波を取り出す。いわば電子レンジのようなイメージで、「世界でも生産できる国はほぼない」と話す。1本当たり数億円で、一つの炉に数十本が必要なため「核融合炉の商用化が進めば強大な市場が形成される」と見ている。既に実験用のジャイロトロンの本体受注や、英国の政府機関が進める原型炉の概念設計にも参画し、多くの実績を積み上げている。

 また、熱を取り出す工程を代表する部品の一つが「ブランケット」だ。核融合炉の内壁を構成する装置の一部で、核融合反応によって生じた熱を回収し、ブランケット内部から液体金属によって約1000度の温度を保ったまま取り出すことで発電や産業利用する。核融合エネルギーの商用化には必須の工程で、世界的な需要が見込まれる。

◆世界初の核融合発電試験プラント

世界初の核融合発電試験プラント「UNITY」


 足元では国内の複数のパートナー企業と、核融合発電システムによる発電を試験する世界初のプラント「UNITY(独自統合試験施設)」の建設を進めている。核融合炉内と同等の高温・強磁場の環境を放射性物質を使わずに構築し、一連の発電システムを実証する。24年末の発電試験開始を目指し、核融合炉からの熱の取り出しや発電に使う一連の特殊機器を、実環境に近い条件で統合的に開発試験する。既にプラントの中核となる液体金属ループの1次建設に着手した。長尾社長は「日本の高度なものづくり力を結集し、世界に先駆けた核融合の発電技術を実証する」と語る。計画は順調に進んでいる。

 将来的には、日本の核融合インフラを輸出することがゴールの一つ。「ゼネコンなど核融合に興味を持ってもらえる企業と早い段階でビジョンを共有し、積極的に参画してもらい、建屋の建設の段階からサポートしてほしい」と話す。

◆カーボン固定化ビジネスも
 長尾社長の描くストーリーは壮大だ。今後、核融合エネルギーが社会実装される際には、その利用方法として「発電だけでなく、空気中のCO2をカーボンとして固定化し、再度、炭鉱に埋め戻すための技術も開発している」と明かす。「エネルギーを生み出すだけでなく、活用方法も考えていきたい。長期目線の脱炭素ビジネスも検証していく」とも。

 「日本の技術を『すごい』で終わらせず、世界をリードできる産業として開花させたい」。そのためにも技術継承は課題の一つと見ている。共同創業者で核融合研究の世界的権威である京大の小西哲之教授、日本のジャイロトロン研究の第一人者である坂本慶司執行役員ら、日本の核融合研究の中心人物が参画しているが、次世代への橋渡しが急務だ。「技術やノウハウを絶やしてはいけない。核融合に対して知見や興味がある人に参画してほしい。火力や原子力など大規模な発電所の建設に携わった技術者は、核融合炉の領域でも大いに活躍できるはずだ」と協力を呼び掛ける。

(ながお・たか)核融合研究の世界的権威である京大の小西哲之教授らとともに京都フュージョニアリングを創業。ラボスケールの研究開発を起点に核融合事業を立ち上げ、戦略立案、資金調達、人材採用を推進した。同社設立前は、アーサー・ディ・リトル・ジャパン(Arthur D. Little Japan)で新規事業などの戦略コンサルティング、エネルギースタートアップのエナリスでマザーズ上場、資本業務提携、AI(人工知能)を活用した技術研究開発などを主導した。京大協力研究員。同大修士(機械理工学)。

   



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