災害時のEVを早期復旧へ進化 停電時も稼働できるV2Xを市場投入
◆08年に業界初の災害対策室設置
エレベーターは、大雨時に冠水して故障するリスクがあるほか、地震発生時には利用者の閉じ込めや故障、停電で利用できなくなる可能性がある。このため、国は大規模地震を受けて耐震基準を順次強化した。エレベーター各社はこれに呼応して、初期微動感知地震時管制運転や予備電源などの導入を進めてきた。
日立ビルシステムはこうした対応に加え、「業界で初めて、災害対応施策を専任で検討・推進する『広域災害対策室』を設置した」と説明する。「05年の千葉北西部地震では、電話がつながらなくなるなど現場が混乱し復旧に時間を要した。当社に対応体制はあったが、これを教訓に08年広域災害対策室を正式に設置した。地震発生後、支社に災害対策本部、支社だけで対応できない場合は本社に全国本部を置き、広域災害対策室と連携して支援に当たっている。今でも災害訓練を実施しながら対応力を強化している」と言う。
◆広域災害復旧支援システムを構築
その後に構築したのが「広域災害復旧支援システム」だ。小島室長の前任で事業企画部長兼広域災害対策室長を務めた辻太郎東日本支社長は「災害発生から復旧完了までの間、出動指示や復旧状況などをこれで一元管理している」と説明する。
同システムでは、どのエリアで何台のエレベーターが停止してるのかといった情報を同社管制センターに集めて、初期段階で全体の被災状況を予測する。その情報を同社災害対策本部に提供し、本部から被災地となった管轄支社・営業所に状況などを報告する。その一方で、全国約300カ所の事業拠点が抱える約3000人のフィールドエンジニアを被災地に派遣し復旧支援に当たる。フィールドエンジニアは同システムを通じて、どのエレベーターが止まってるのか、または復旧の完了状況などをスマートフォンから色分け表示された形で確認する。復旧場所を選んで予約して作業に向かえるため迅速な復旧作業が可能となる。
24時間365日稼働する管制センターを通じて、普段の故障対応を含め、災害時にも迅速に対応することが「企業活動の基本になっている」と言う。菊池秀之事業企画部主任技師兼広域災害対策室員は、このシステムで「復旧の予約一覧を確認できるため、フィールドエンジニア同士が現場でバッティングする無駄足がなくなる。地方から支援に行っても、地図の経路に従って到着できる」とメリットを強調する。
◆ビルリンクで対応力高度化
それからさらなる対応の進化を遂げて登場したのが、ビルリンクだ。当初はウェブサービスだったが、現在ではスマホアプリからでもエレベーターの稼働状況などを確認できる。災害時には、広域災害復旧支援システムの情報と連動する。ビルのオーナーや管理者といった顧客は、地震時にエレベーターの稼働状況や復旧状況などを自らスマホで確認できる。このため、状況を早く知りたい顧客の不安を払拭し、安心を提供している。
小島室長は「以前は地震発生時に、電話での問い合わせに答えていたが、広域災害発生時には電話がつながりにくい。このアプリで顧客は災害時に自ら復旧の進捗状況を確認できる。今ではビル空調の稼働状況の確認に加え、台風の接近に備えてエレベーターが冠水から待避できるように遠隔で上階に移動させることなども可能となっている。顧客のニーズに刺さり、高い評価を得ている」と手応えを口にする。
◆停電時連続稼働へEVからの給電も
同社は、レジリエンスへの貢献に向けて、新たな取り組みも展開している。日産自動車との協創で、停電時に電気自動車(EV)からの給電によりエレベーターを動かす「V2Xシステム」の普及に乗り出している。
連続稼働の実証を行った結果、軽EV「日産サクラ」(バッテリー容量20kW時)からの給電により、日立の標準型エレベーター「アーバンエースHF」を約15時間、連続稼働させることを実証できた。日立ビルシステムはV2X技術を活用し、エレベーターだけでなく空調などの建物設備も動かす「V2Xシステム」について、6月の販売開始に向け準備している。
小島室長、菊池主任技師はともにIoT(モノのインターネット)などの新技術をいち早く取り込み、「エレベーターの稼働の継続や早期復旧など広域災害時の対応強化に生かしていきたい」と意欲を示す。小島室長は「フィールドエンジニアは迅速な復旧に向けて高いモチベーションを持っている。これを維持しながら磨きをかけることで、顧客サービスを最大化していく」と語る。