【レジリエンス社会へ】防災・減災のDNA・鹿島 最適解に挑む (上) 〈地震編〉 | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

レジリエンス社会へ

【レジリエンス社会へ】防災・減災のDNA・鹿島 最適解に挑む (上) 〈地震編〉

被害抑制と早期復旧を一体支援/グループのシナジーを最大限発揮/社業の発展通じ社会に貢献
 防災・減災分野で建設企業が果たす役割は大きく、近年の災害激甚化に伴いこれまで以上に注目されている。鹿島はスーパーゼネコンとしての高い技術力を生かした幅広い対策工法に加えて、グループ企業の専門的な知見を組み合わせることで、他にはない強みを持つ。オフィスや共同住宅、工場など多方面で高まるニーズに対し、鹿島グループのシナジーを最大限発揮して、顧客に最適解を示す。「地震」「水害」「BCP(事業継続計画)」の3分野について鹿島の防災・減災の最新動向を追った。

 100年前の関東大震災では、当時木挽町(現東京都中央区銀座)にあった鹿島組本店が延焼により全焼するなどの被害を受けながらも、北千住駅など関東各地の鉄道インフラを中心に復旧作業に尽力した。その後も多くの災害で復旧・復興を担うとともに、防災・減災に貢献する技術開発を一貫して進めてきた。

 例えば、1990年代初頭には黎明(れいめい)期にあった制震技術に着目。風揺れのような小振幅の揺れから大地震まで制御できるオイルダンパー制震装置「HiDAM」を95年に開発した。2000年に独自の電気制御技術により制震性能を向上させた「HiDAX-s」、05年には電気制御が不要の「HiDAX-e」と改良を重ねてきた。

 15年に発表した最新型の「HiDAX-R」は自動車などの工業分野で活用されるエネルギー回生システムの原理を初めて建物に応用し、一般のオイルダンパーの4倍の制震効率を実現した。東日本大震災で課題となった超高層ビルでの長周期地震動にも対応し、東京ミッドタウン日比谷をはじめ、8件の採用実績(3月時点)がある。

 既存建物の制震改修ではTMD(チューンド・マス・ダンパー)による制震装置「D3SKY」を開発。屋上に設置するだけで効果を得られることから、居室空間への影響を最小限にとどめられる。多段積層ゴムによって省スペース化を実現した「D3SKY-L」、中低層ビル向けの低コスト・コンパクト型「D3SKY-c」などニーズに沿ったメニューを展開する。

D3SKY


 今年6月には、超高層建物に制御層を構築することで全体の揺れを大幅に低減する「KaCLASS」を開発し、大阪市で建設中の39階建ての共同住宅に初適用する。高層建物の上部3分の1から4分の1の位置に制御層と呼ぶ中間免震層を設けることで、制御層より下部の建物躯体に制震効果、制御層より上部の建物躯体に免震効果をもたらす。従来の耐震・制震架構と比較して少ない柱梁で高い安全性を確保できる。

 制震分野の主な技術だけでもこれだけのラインアップをそろえる訳を、鹿島の福田隆介構造設計統括先進技術グループグループリーダーは「顧客が抱える課題、あるいは気付いていない課題に対しても、より良く、よりコストパフォーマンスの高いものを常に提案できるよう用意している」と説明する。鹿島の経営理念である『社業の発展を通じて社会に貢献する』に触れ、「良いものを数多くつくって、提供することが社会が良くなることにつながる」と話す。

◆技術連携でブランド力向上
 レジリエンス社会の実現には制震技術などによる「被害の抑制」に加え、「早期の復旧」も重要となる。その役割を担うのが小堀鐸二研究所だ。同社は世界に先駆けて「制震構造論」を提唱した故小堀鐸二博士が京大退官後の鹿島副社長在任時に、制震構造の実用化と普及を目的に設立した。現在は独立し、資本関係は離れたが、協業や研究開発などのつながりは健在だ。

 同社が開発した建物安全度判定支援システム「q-NAVIGATOR」は地震時の挙動を計測して建物全体の安全性を即時に3段階で推定する。規模や用途、竣工時期、元設計・元施工業者を問わず設置できることから実績を伸ばしており、オフィスや工場、ホテル、商業施設、住宅、教育施設など全国545棟(5月末時点)で導入している。

q-NAVIGATOR


 小堀鐸二研究所の神田克久プリンシパルリサーチャープロジェクト部統括部長は「迅速に情報収集できることが最大のメリットだ。大災害では情報収集が困難になると考えられることから、自動で情報が上がってくる仕組みは応急対応の戦略決定に役立つ」と説く。「小堀鐸二研究所はコンサルタントであり、研究機関でもあることから、常に研究開発を続け、実際の地震時に使えるものを目指していく」と力を込める。

 鹿島とは部材レベルの損傷評価や無線化などq-NAVIGATORの高度化したシステム開発に取り組んでいる。また、鹿島の設計施工案件でデータ連携の覚書を交わした顧客には1年間の地震観測記録と継続観測から得られる分析結果を無償で提供する。

 鹿島の制震建物などへ採用を進めることで、技術の導入効果の観測、検証、改良といったスパイラルアップにも活用できる。鹿島の中井武構造設計統括グループ先進技術グループグループリーダーは「適用した技術が十分に効果を発揮しているのか確認することも重要な視点だ。それが信頼感の醸成や鹿島ブランドの向上につながる」とみる。

◆防災への寄与が共通の思い
 計測に基づく安全性調査の次段階には、目視調査による被害状況の判定が必要となるが、鹿島と応用地質が共同で出資して設立したイー・アール・エス(ERS)は、AI(人工知能)を導入して自動で損傷度合いを判定するシステムを確立した。

 従来、人間が写真と見比べて判断していたものを、部材の外観撮影の結果からひび割れの量や幅、パターンなどを分析し、損傷度を判定する。専門家ではない施設管理者でも正確な損傷判定が可能なことから、損傷後の対応を迅速化できる。24年以降には大きいひび割れなど高い損傷度の判定も自動化する。

 ERSが提供する自然災害情報配信システム「ERS災害アラートQ」も高い評価を得ている。震度や建物・人的被害予測を全国250mメッシュという高精度で提供する仕組みで、地震発生の20~30分後に震度や構造被害の推定情報が一覧で電子メールで配信される。

 日本の地盤の特性上、数㌔離れただけでも揺れが大きく異なるため、250mメッシュ単位の推定が大きく役立つといい、多数の建物を管理するデベロッパーや自治体での初動対応の迅速な優先度設定などに貢献する。

 ERSの古澤靖彦社長は「東日本大震災で、未曽有の災害は本当に起きるということを身をもって経験した。災害に対する備えに少しでも寄与したいという思いは社員に共通している」と語る。

鹿島が考えるBCP



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