【レジリエンス社会へ】防災・減災のDNA YKKAP 非木造建築の防災開発戦略 | 建設通信新聞Digital

5月6日 月曜日

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【レジリエンス社会へ】防災・減災のDNA YKKAP 非木造建築の防災開発戦略

商品開発の鍵は“断熱”/激甚化する気候に挑む
 YKKAPは、防災や減災に対応する商品の展開にとどまらず、これらを通じて建材メーカーとして快適な空間を提供している。地震や台風といった自然災害のほか、昨今では災害級とされる猛暑などの激甚化する気候に対するニーズに応えるため、断熱にフォーカスして商品開発に取り組む。ビルや集合住宅の防災に関連する商品と開発戦略について追った。

エピソードNEO-LB引違い窓(2枚建)の施工イメージ

 顧客のニーズを見ると、地震時の安全性に加え、日常における暑さ、雨、風などに対して快適な室内空間を保てるかどうかが今注目されている。相沢克栄ビル本部ビル商品企画部副部長は「今後、気候の変化も大きくなり、窓の断熱化の需要が高まる」と分析する。「温度と湿度の変化が少なく、一定の状態で保たれることが大切」との考えから、窓を断熱仕様にすることが快適な空間につながる手段だと考える。

 例えば、集合住宅の窓については、アルミと樹脂の複合の構造にすることで、断熱性能を高められる。現在、非木造住宅向けのアルミ樹脂複合窓「エピソードNEO-LB」を展開しているが、一定の階高以上になると、高い耐風圧性能や水密性能が求められる。そこで、既に販売している商品と同じ構造で断熱、耐風圧、水密性能を高めた商品を開発し、2024年度から展開する。さらなる高層・超高層建築に対応できるほか、老人ホームや病院、幼稚園など非居住の生活施設系の建物にも導入可能になる。

 一方、非木造の集合住宅や事務所ビルの窓の多くがアルミ製という現状がある。戸建てに比べて外気に接する面が少なく建物自身の熱の変化がないことや、コスト面の課題が普及に至らない原因だとみる。「戸建てで進みつつある、樹脂など断熱性が高い素材を使った窓を訴求していきたい。デベロッパーには、SDGs(持続可能な開発目標)など環境に対する取り組みなども併せてアピールしていく」方針だ。

 今後増えていくストックに対し、製品の更新需要を取り込むことも重要になる。改修用の耐震仕様扉や高断熱サッシなど防災関連の高付加価値商品群をとおし、一層快適な居住空間を提案する。マンションの管理組合などへの提案のほか、体感ショールームを活用し、より断熱の効果を理解してもらう取り組みも積極的に進める。

◆防災と快適さを両立

 非居住建築には、有事の際に避難所として使われることを想定している建物も多いという。避難所としていかに快適な空間を提供できるかどうかに着目し、電気が止まっても換気による感染症対策ができる商品を販売する。相沢副部長はこれまで展開してきた防災関連商品を振り返り、「コロナ禍を経て、事務所ビルでは機械設備を使った換気ではなく、自然の風を利用したいとの要望があった」ことから、「強風を抑制しながら自然な風を取り入れる機構を持つ窓の需要があった」と話す。

 集合住宅は、玄関ドアかテラス・ベランダからしか外に出られず、地震が起きた際に避難が遅れるといったリスクがある。そこで、扉の枠と扉自身の隙間を通常よりも大きくすることで、災害時に損傷を受けて枠がゆがんで扉が開かなくなる危険性を低減する“対震性”を持たせた「耐震防犯仕様」を取り入れた玄関ドアを準備している。同商品は、東日本大震災を契機に引き合いが増えたという。

耐震防犯仕様玄関ドアの仕組み


 具体的な商品に目を向けると、障子自体がバランスを取りながら動き、外気を効率良く取り入れて建物内の空気を入れ替える構造の自然換気窓「EXIMA31バランスウェイ」を挙げる。電気なしで稼働できるため、災害時でも換気により快適な空間を実現する。

EXIMA31バランスウェイ


 開口部に組み入れやすい縦型機構で自然換気できる「EXIMA31サイドパス」も展開している。雨を防ぐだけでなく、強風時に適当な強さで外気を導入できる。手動で開け閉めするため電気を使わず、事務所ビルなどのBCP(事業継続計画)にも対応する。

 ゲリラ豪雨などに対して、より高い水密を持つ商材もそろえる。高水密窓「EXIMA 31Wb」は、JIS水密性試験の最上等級W-5(500パスカル)を超える性能を持つ。実際の気象条件、台風などによる大雨を想定した独自の試験基準1000パスカル(180分)の水密性能試験から、長時間の大雨に対応できる水密性能を確保していることを実証した。「沖縄県を中心に台風の被害が大きい地域に展開していた。近年はさまざまな地域で豪雨災害が起きているため、地域に関係なく提案できるようになる」と力を込める。

 また、主に学校の教室に対して、エアコンなどの整備に加えて内窓の設置を推奨し、自治体への提案に努めている。遮熱のほか、冬に結露を防いでカビが発生しにくくなる。窓を二重にすることで、音や熱を遮りながら、換気により外気を取り込む効果もある。

【防災への取り組み】

 同社は、災害・リスク発生時に備えて国内外のすべての拠点でBCPを策定している。22年度には「事業継続マネジメント(BCM)規定」の見直し・更新を実施した。23年度は、機能軸・地域拠点単位で浸透を進める。また、資材の複数社購買やサプライチェーンの把握と改善、重要管理アイテムの緊急在庫の確保のほか、開発・製造・購買部門が連携して代替調達の設定を行うなど、商品開発の段階からBCPを踏まえた取り組みを実行している。こうした取り組みが評価され、レジリエンス認証の「事業継続および社会貢献」を8月1日に取得した。

 同社が実施した20~60代の男女1220人を対象とする「住まいの防災・減災についての意識調査」では、身の回りで起こる可能性のある危険な出来事について不安を感じることを「自然災害」と回答した人のうち、地震や台風・竜巻、豪雨といった自然災害、猛暑に不安を感じている人が多いことが分かった。

 住まいに取り入れたい・既に取り入れている災害対応力を高める設備については、耐震構造・補強に次いで「断熱性の高い窓」が並んだことから、気候の変化に伴い断熱が注目されていることが結果に表れている。

「住まいの防災・減災についての意識調査」の結果から。自然災害の中でも猛暑に不安を感じている人が46.6%に上った


住まいに取り入れたい・既に取り入れている災害対策



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