【レジリエンス社会へ】防災・減災のDNA・鹿島 最適解に挑む (下) 〈BCP編〉 | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【レジリエンス社会へ】防災・減災のDNA・鹿島 最適解に挑む (下) 〈BCP編〉

推定技術・SNS採用し初動迅速化/フェーズフリーで経験蓄積
 鹿島グループとしての災害対応の強みの一つは発災以後の迅速かつ充実したフォローにある。それは当然ながら、鹿島が機能していなければ不十分なものとなりかねない。大前提となる自社社員の人命確保と安否確認を徹底し、周到なBCP(事業継続計画)に沿って万全の体制を敷く。突如として襲来する大災害に対し、受け身ではなく平時からの防災意識で能動的に迎え撃つ。

 鹿島では災害規模をいち早く把握し、適切な初動につなげるため、災害情報共有システム「BCP-ComPAS」を構築・運用している。「Communication and Performance Assistant System」の頭文字を取ったもので、BCPの羅針盤(コンパス)という意味も込めている。

BCP-ComPASの概要

 BCP-ComPASでは、本・支店や現場、竣工物件の位置といった社内情報と地震・気象・火山などの各種ハザード情報やSNS(交流サイト)のリアルタイム情報を組み合わせて、GIS(地理情報システム)上で表示する。地震時の被害推定や支援物資の搬送ルート検索に生かせるほか、コンクリート打設時の降雨情報やクレーン使用時の強風情報など平時にも活用できる。災害時に限定した利用では、災害が生じた際にすぐに使いこなせないため、フェーズフリーの仕様とした。

 施設や現場の位置に合わせてピンポイントに震度情報が取得できるため、高精度なことが特徴だ。構造被害の発生確率をパーセンテージで示せる鹿島の推定技術と併せて、各拠点の状況を一覧で示す。「構造被害あり」と推定する際の的中率は70%と高く、被害発生の可能性がある拠点が一目で把握できることから、支援体制の構築など重要な初動対応での意思決定に貢献する。

 近年、浸透してきたSNSの情報も活用することで、より現場に即した精度の高い情報が取得できる。防災・危機管理ソリューションを提供するSpectee社の技術を活用し、AI(人工知能)と目視でフェイク情報を除去した上で、GIS上に反映。道路の寸断などにより通行ができなくなっている箇所を割り出すことができ、より確実な支援ルートの設定に役立てる。

 BCP-ComPASの情報は現場や管理部門で有効に活用できるよう、登録した地点での震度や気象警報をプッシュ型で社員に配信する。各現場で収集される災害時現場速報や顧客建物の詳細な被災状況が分かるq-NAVIGATOR、営業担当者が顧客建物の被害状況を集約する災害復旧データベース(DB)などのシステムを活用して、応急復旧と顧客対応に当たっていく。

◆全てはお客さまの安心・安全のために
 復旧作業は社長を本部長とする震災対策本部が主導し、本社ビルのほか、首都圏支店や技術研究所、中部・東北・関西の各支店など被災地域に応じて適切な場所に設置できる体制を取る。本支店や社員寮などの復旧活動拠点に徒歩で集まれる参集要員を任命しているほか、公共インフラに依存しない複数の通信手段、支援物資・要員の輸送手段も事前に確保している。

 復旧活動で重要な役割を担う協力会社とは災害協定を締結し、連絡リストを作成している。有事の際には支援を要請し、必要な重機・資材・人員・車両を手配する。鹿島が作成した「簡単に作れるBCP」と題するひな型も協力会社に対して提供しており、サプライチェーン全体での災害対応力の強化を図っている。

 余念のない体制・技術・システムは、これまで取り上げてきたグループ・関係各企業の連携によって構築している。取材に応じた担当者はいずれも防災・減災への強い思いを異口同音に語ってくれた。阪神・淡路大震災の被害調査に当たった経験を持つ鹿島の近藤明洋構造設計統括先進技術グループ統括グループリーダーの「微力ながら1棟でも壊れる建物を減らしていきたい。その気持ちを今も持ち続けている」という言葉にレジリエンス社会の実現に貢献する鹿島の本気が見える。



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