【レジリエンス社会へ】防災・減災のDNA・鹿島 最適解に挑む (中) 〈水害編〉 | 建設通信新聞Digital

4月30日 火曜日

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【レジリエンス社会へ】防災・減災のDNA・鹿島 最適解に挑む (中) 〈水害編〉

グループで一気通貫のサービス提供/被害想定と対策費を可視化/予測・予防・対応を合理的に
 近年、地震と並んで水害に対する備えも欠かせないものとなっている。鹿島は2022年10月、「水災害トータルエンジニアリングサービス」を発表した。予測・予防・対応の各フェーズを通じて合理的な対策を提供する“鹿島の総合力”による新サービスとなる。調査や設計、施工、被害推定のそれぞれを提供する企業はあるが、鹿島グループとして一気通貫で提供できることが最大の強みだ。

水災害トータルエンジニアリングサービスの連携イメージ

 鹿島技術研究所の高井剛都市防災・風環境グループBCP・リスクマネジメントチームリーダー(上席研究員)は、水害への対策が耐震や耐火ほど進んでいない理由の一つに、「建築基準法に単体規定がないこと」を挙げる。「地震や火事には建物としての最低限の基準が決まっているが、水害はハザードマップでの浸水深など都市整備の観点からの表示しかない」と指摘する。建物の所有者は自ら立地特性などを踏まえて水害対策を検討しなければならないが、導入判断を正確にできる所有者は少数に限られる。

 そうした課題・ニーズを踏まえて打ち出した水災害トータルエンジニアリングサービスでは▽立地特性を踏まえたハザード評価▽被害額や休業期間といったリスク評価▽ハード対策▽運用支援–の一連の対策を提供する。水害の影響度を可視化した上で、個々の施設の被害を想定。その想定を前提としてどの施設をどのように守るのか検討可能であるため、被害想定と対策費を合理的に検討できる。

 今年7月には自社の技術研究所西調布実験場(東京都調布市)に適用した。導入事例をショーケースとしてオープンにすることで、具体的なメニューや効果をより分かりやすく示す。近接する多摩川流域の地形をモデル化した上で、最新データに基づく降水量や気温の2度上昇を考慮した降水量などを設定し、詳細な氾濫解析を実施。分析結果に基づく浸水深に対して必要となる止水対策を立案した。

 対策ではRC造止水壁で外周を囲うことによる圧迫感を和らげるため、一部にガラススクリーン止水板を使用。浸水時に自動開放される避難口や二重の逆流防止弁も開発し、24年10月まで約1年かけて工事を進める。「最も重要となるのは運用の段階だ。台風など災害の都度、問題点を見直し、顧客の治水対策を万全なものにスパイラルアップしていく。『トータル』というのは運用支援まで一体であるという意思表明だ」(高井氏)と力説する。

◆BCPを自分のものに 踏み込んでこそ実効性

 サービスのうち、リスク評価はイー・アール・エス(ERS)、運用支援は鹿島建物総合管理と連携して取り組む。予測部分のコアを担うERSの古澤靖彦社長は「被害額を算定できる点が大きい。図面だけでなく、現地状況も確認した上で、鹿島と連携して提示でき、機械単体や建物をモデル化して算定するなど顧客のニーズに合わせて多数のメニューを用意している点も特徴だ」と強調する。

 ERSでは水害に対応した「ERS災害アラートF」も提供している。顧客の拠点周辺に国土交通省などの関係機関が発信する最新情報を重ね合わせることで、氾濫状況など危険度を配信する。情報は電子メールで発信し、事前に用意した対策の発動や避難判断のトリガーとして活用できる。さらに、主に災害対策本部での利用を念頭に置き、情報を集約して一覧性を高めた形式での配信も今秋をめどに一般向けにリリースする。発災時などに集中する情報を整理できることから、多数の施設を管理するデベロッパーや地方自治体などでの活用が見込まれる。

 加えて、災害の激甚化とともに国内で浸透しつつある「マイタイムライン」に関するセミナーや策定支援マニュアルも用意している。「部署などをまたいだ演習で顔の見える関係を構築できると好評だ」(古澤社長)という。

 鹿島技術研究所の近藤宏二プリンシパル・リサーチャーは「BCPを提案するだけではだめで、運用して自分たちのものにしていかないと実効性がない。そこまで踏み込んだサービスを展開していく」と先を見据える。



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