【レジリエンス社会へ】地域マイクログリッド事業が始動 関電工 | 建設通信新聞Digital

5月5日 日曜日

レジリエンス社会へ

【レジリエンス社会へ】地域マイクログリッド事業が始動 関電工

いすみ市に東電PGと共同で構築 長時間停電でも電力供給し防災力向上
分散型エネルギー移行への象徴
 関電工は、再生可能エネルギーなどを活用して災害に強いまちづくりや地方創生、さらには脱炭素社会への貢献も視野に入れ、「地域マイクログリッド」の構築事業に取り組んでいる。その電源設備を千葉県いすみ市に2021年7月から23年1月にかけて、東京電力パワーグリッド木更津支社の協力を得ながら構築し、ことし2月からその運用を始めた。3月27日に地元で開かれた完成披露式で関電工の仲摩俊男社長は「日本のエネルギーシステム構造は、従来の集中型から分散型への移行期に入った。これは大規模な発電所による送電網中心の仕組みから、再生可能エネルギーを活用した地域の小規模な発電所と配電網を結び付けた分散型エネルギーシステムへの変化を意味する。いすみ市の地域マイクログリッドは、分散型エネルギーシステムに社会が移行する象徴となる」と、その意義を強調した。

◆大規模停電時に遮断しエリア内に電力を供給

 18年9月に発生した北海道胆振東部地震では、広範囲での大規模停電が長時間続いた。そんな窮状から住民を救い、生活に欠かせない電力を非常時でも供給し続ける社会インフラが地域マイクログリッドだ。

 再エネなどの電源設備を設け、一定のエリアに限定して緊急時の配電網を構築することで、大規模災害などで停電が長期化した際には、停電の元となっている通常の配電網を遮断する。その代わりに、構築した地域マイクログリッドのエリア内の施設に、再エネなどによる電力を供給する仕組みとなっている。この仕組みを用意しておくことで、地域の災害レジリエンスが高まる。

◆30年3月まで運用の電源設備が完成

 いすみ市は、大規模災害に備えて21年5月に「いすみ市国土強靱化地域計画」を策定した。災害時の電力供給も課題の一つと捉え、これに対応可能な体制整備を考えていた。そこで白羽の矢が立ったのが、関電工が提案した地域マイクログリッドだ。東京電力PG木更津支社は一般送配電事業者として、この構築事業の検討段階から参画した。安定供給や電力品質などの技術面、マイクログリッド発動時の運用面について、関電工と協議・調整しながら3者で具体化を目指してきた。

 その後、関電工は従来の「太陽光+蓄電池」というシステムだけでなく、新開発のLPG(液化石油ガス)発電機を加えた独自システムを開発し実証を重ねた。電力の長期・安定供給を実現する同技術の先進性が評価され、この取り組みが経済産業省の補助金事業に採択された。経産省の22年度「地域共生型再生可能エネルギー等普及促進事業費補助金(地域マイクログリッド構築支援事業のうち、地域マイクログリッド構築事業)」を活用し、1年半をかけて地域マイクログリッドを完成させた。その設備運用は23年2月から30年3月までとなる。

◆LPG発電機の強みで電力を長期・安定供給

 いすみ市に構築した地域マイクログリッドは、災害時の指令拠点となる市役所、避難所となる市立大原中学校を囲むエリアに限定して構築した。このエリアには住民27世帯も含まれ、ここにも大規模停電時に電力を供給する。

マイクログリッド導入エリア全景


 関電工は、電源設備として太陽光発電や蓄電池、LPG発電機を設置した。市役所には太陽光パネル216枚で出力60kW時の設備を、大原中には同528枚で出力200kW時のほか、出力50kW時のLPG発電機2台を設け、合計で360kW時の電源を準備している。

マイクログリッド電源設備


 この電源の最大の強みは、LPG発電機を採用した点にある。フル稼働の状態でも4、5日間はこの発電機を回し続けることができる。運転しながらLPGを補給することも可能で、LPGの供給が続く限り発電・電力供給ができるため、電力の長期・安定供給を実現する。

 LPG発電機の裏側には発電機用インバーターを設置しており、LPG発電機からの直流電源を交流電源に変換する。関電工はエネルギー・マネジメント・システム(EMS)も開発し、マイクログリッド発動時の系統内の需給調整を行うなど、確実な運用のためにこれら発電機をEMSで一元管理している。

◆普及へコストダウン、配電ライセンスも視野

 仲摩社長は「地域マイクログリッドは分散型エネルギー社会を実現する基盤技術の一つだ。集中型から分散型への移行に向けて、今回、従来の太陽光発電と蓄電池に加え、LPG発電機の三つの電源を統合制御する電源システムを開発した。これにより、安定した電力供給を可能にしている。国土強靱化にも貢献する新しいエネルギー供給の形を世に示すことができた」と評価する。

 今後については、「このプロジェクトで得た知見をもとに電源システムの標準化やコストダウンを進め、地域マイクログリッドの普及拡大に貢献したい」と語る。需給調整を担うEMSと各インバーターを統合化し、大幅なコストダウンを図り普及につなげる。

 さらに「地方は人口減少とともに、レジリエンスやカーボンニュートラル、サステナビリティーといった社会課題に直面している。再エネを活用した分散型エネルギー社会への移行は、その有効な解決策の一つとなる。その大きな役割を担うのが配電事業ライセンスだ」とし、配電事業ライセンスの取得にも意欲を示す。

 ライセンスを取得した事業者は、大手電力会社ではできない発電と小売りの現業が許可され、再エネの地産地消を一体的かつ効果的に配分できるため、これによって地域の社会課題の解決に貢献したい考えだ。

◆太田いすみ市長関電工に感謝状

 完成披露式で太田洋市長は「この設備工事では、いすみ市庁舎の業務への影響や大原中学校の生徒たちへの安全確保にも最大の配慮をいただき無事に工事が完了した。これは当市の誇りであり、宝でもある。全国でレジリエンスの強化が求められている昨今、このマイクログリッドが全国に拡大することを願う」と述べ、仲摩社長に感謝状を贈呈した。

太田洋いすみ市長(左)が仲摩関電工社長に感謝状を授与


 地域マイクログリッドは災害対応の強化はもちろん、平常時にはこれらの電力を活用し、ピークカットや自家消費により電力の消費量やコストを削減して脱炭素社会に貢献する。このため、同市は大規模停電発生時の電源確保と、再エネなどの有効活用による温室効果ガスの排出削減の両立により、災害に強く環境に優しい持続可能な地域づくりを目指す。

テープカット





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