【45°の視線】建築史家・建築批評家 五十嵐太郎氏 寄稿 初めて日本の都市破壊を描いたアニメ | 建設通信新聞Digital

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【45°の視線】建築史家・建築批評家 五十嵐太郎氏 寄稿 初めて日本の都市破壊を描いたアニメ

◆展覧会監修で改めて想起した疑問

 金沢建築館で開催される「アニメ背景美術に描かれた都市」展(6月17日-11月19日)に監修として関わり、この春は年表やマップの制作、カタログ用の論考や展示作品のキャプションの執筆などにいそしんでいた。これは『アニメ建築 傑作背景美術の制作プロセス』(グラフィック社、2021年)の著者でありキュレーターのシュテファン・リーケレスが企画した海外の巡回展を再構成し、建築的な視点を補った内容となる。

 今回、年表をまとめながら、改めて長年抱いていた疑問を思い出した。すなわち、なぜ日本のアニメは都市を破壊する作品が多いのか、である。もちろん戦災や震災だけでなく、スクラップ・アンド・ビルドが激しいのだから、こうした状況の反映なのかもしれない。関東大震災に耐え、恐らく接収を見越して空襲を受けなかったライト設計の帝国ホテルでさえ、結局、1960年代の高度経済成長期の波によって解体された。

 戦後の日本は憲法によって戦争を禁止されたが、フィクションの中では都市破壊を繰り返す。アーティストの村上隆は、企画した「リトルボーイ」展(2005年)において、核の傘に守られた日本が成熟することなく、爆発シーンが頻出するオタク・アニメを発展させたことを提示した。ちなみに、「リトルボーイ」というタイトルは、広島に投下された原爆のニックネームであり、マッカーサーが日本人の精神年齢は12歳だと発言したことを踏まえたものだ。

 今度の展覧会では、6作品を取り上げるが、半分以上が都市破壊をモチーフとしていた。特に大友克洋監督の『AKIRA』(1988年)と、りんたろうが監督、大友が脚本を担当した『メトロポリス』(2001年)、そして東京をリアルに攻略する作品を展開した押井守の『機動警察パトレイバー劇場版』(1989年)と『機動警察パトレイバー2 the Movie』(93年)である。大友は高層団地を舞台とする漫画『童夢』(83年)、自動建設機械が制御不能になる短編アニメ『工事中止命令』(87年)、スチーム城が崩壊する『スチームボーイ』(2004年)など、ほかの作品でも破壊のシーンを登場させた。

 『童夢』や『AKIRA』では、見えない超能力のすさまじいパワーを表現するために、コンクリートの壁がめり込むなど、建築が壊れる状況を精緻に描く。実は3.11の直後、女川を訪れたとき、津波の威力でコンクリートの壁が破壊された風景を見て、大友の描写を想起したくらいだ。もちろん、ジブリの作品のほか、1970年代のテレビアニメ『マジンガーZ』『宇宙戦艦ヤマト』『機動戦士ガンダム』などでも建築や都市が破壊される。

 では、そのもっと早い事例はどこなのかを調べたら、意外な作品にたどり着いた。太平洋戦争のときに制作したディズニー社のプロパガンダ映画『空軍力による勝利(Victory Through Air Power)』(43年)である。飛行機の歴史を振り返りつつ、空軍力が戦争の鍵になると指摘し、前線ではなく、長距離爆撃機を使い、本土を叩くべきだと、実写を交えながら力説するものだ。終盤のアニメでは空襲によって都市を攻撃する。工場、造船所、神社、古建築、ビルが爆発し、日本の都市が炎上する。寓意(ぐうい)的な表現としては、タカ=米国の空軍が、アジアに触手を伸ばしたタコの頭=日本の本土を襲う。ラストシーンでは、風にたなびく星条旗に勝利したタカが止まる。初の空襲は42年4月に起きているので、予言的な提案というよりも、その本格化にアメリカ世論を誘導する役割を担ったのだろう。

ユーロディズニーランドのノーチラス号(筆者撮影)


 ディズニー社には、もう一つ興味深い作品がある。『わが友 原子力(Our Friend the Atom)』(57年)は、冒頭で原子力潜水艦としてノーチラス号(ジュール・ヴェルヌのSF小説『海底二万里』の設定を変更)が描かれ、博士がランプの魔人になぞらえて原子力を説明し、都市への電力供給、医学、船や飛行機などの平和利用をうたう。この作品は58年に日本のテレビでも放映されたらしく、原子力発電所の推進に一役買ったと思われる(漫画『鉄腕アトム』の連載開始は52年)。またディズニーランドの「ディスカバリーランド」では、ノーチラス号が導入された。なお、ここで紹介したディズニーの2作品は、原題で検索すると、ユーチューブで全編を視聴することができる。



 

(いがらし・たろう)建築史家・建築批評家。東北大大学院教授。あいちトリエンナーレ2013芸術監督、第11回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展日本館コミッショナーを務める。「インポッシブル・アーキテクチャー」「装飾をひもとく~日本橋の建築・再発見~」などの展覧会を監修。第64回芸術選奨文部科学大臣新人賞、18年日本建築学会教育賞(教育貢献)を受賞。『建築の東京』(みすず書房)ほか著書多数。

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