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【45°の視線】建築史家・建築批評家 五十嵐太郎氏 寄稿 オルタナティブとしてのテントの空間

最終更新 | 2022/06/15 10:28

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◆60年代の建築界に呼応する「紅テント」
 久しぶりに新宿の花園神社で、唐組の公演を観劇した。演目は『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』(初演は1976年)であり、映画の『メリー・ポピンズ』や『終着駅』、森進一を巡る時事ネタ、当時の流行歌、『銀河鉄道の夜』『ハムレット』『ドンキホーテ』『欲望という名の電車』などを重層的にちりばめており、寂れた傘屋の舞台美術もまさに昭和の空気感だったが、意外に若い客が多い。
 よく知られているように、唐組は赤いテントの仮設構築物を使っており、同じ演目を別の場所で見たことがあったが、テント内は舞台との距離が近く一体感が強い。一方で最後はパンと舞台の奥がはじけて、屋外の空間とつながり、主人公が傘をもって宙に浮く、開放感あふれるエンディングを迎える。
 この日は上演の途中で雨が降り、これが完全に屋外の公演だと辛いが、幸いテントの膜によって守られる。実は前回、ここで唐組の『透明人間』を見たときも雨だった。もっとも、水を怖がる狂犬のイメージが、めくるめく飛翔し、戦時下の中国と行き来しながら、水につかれた幻想の世界に誘う作品なので、雨の日に観劇するのも悪くなかった。
 歴史をさかのぼると「紅(あか)テント」は、唐十郎が率いる状況劇場によって、67年の夏に初めて花園神社に登場した。この移動式劇場は、ほかにも小学校のグラウンドなど国内外を回り、大きな話題を集めたものである。ちなみに、木下サーカスもテントによる巡回公演を継続しているが、こちらはもっと規模が大きい。紅テントは、劇団員がセルフビルドで建設できるサイズだ。

劇団唐組の拠点、新宿花園神社にこの春公演で建った紅テント


 興味深いのは、60年代に生まれたことである。例えば、「状況」という言葉は、68年にパリの五月革命に大きな影響を与えたシチュアシオニスト(状況主義)の芸術的な抵抗運動と響き合う。
 そしてテントは、当時の建築界において注目された素材だった。例えば、英国の前衛的な建築集団、アーキグラムによるインスタント・シティのシリーズ(68-70年)やブロウ・アウト・ビレッジ(66年)、コープ・ヒンメルブラウのアストロ・バルーン(69年)などは、いずれも膜による空間を提案していた。すなわち、気球や飛行船、テントのような膜の屋根によって、仮設的な場を構築する。その背景には、従来の建築や都市が重くて変化しないことに対する彼らのいら立ちがあった。
 以前、筆者は拙著『モダニズム崩壊後の建築』(青土社、2018年)において、68年の精神と空気構造について論じたが、まさに当時の雰囲気を反映した建築だった。66年、フランスでは思想家のボードリヤールや批評家、建築家がグループを結成し、雑誌『ユートピー』を刊行している。彼らは抑圧からの解放を意識し、直接的な表現として軽い空気構造の可能性に注目した。恐らく、ふわふわとした明るい色の空間は、建築が宿命的に縛られた重力からの解放も示唆するだろう。
 そして68年にパリでは「空気構造」展が開かれ、建築雑誌では「空気の世界/新しい世界(Pneu World)」を特集している。しかし、彼らのプロジェクトのほとんどはアンビルドに終わった。むしろ、空気構造を本格的に実現したのは、アメリカ館や村田豊が設計した富士グループ・パヴィリオンなど、70年の大阪万博である。
 ところで、磯崎新も、60年代に空気膜構造の半球を抱えたモビールハウス、A邸を提案していた。これはやはりアンビルドだったが、東日本大震災の後、発展形というべきプロジェクトを展開している。うねる造形を得意とするアーティストのアニッシュ・カプーアと共同して制作した、被災地に音楽を届ける移動式の仮設ホールのアーク・ノヴァだ。
 濃い赤色の丸みを帯びた有機的な形態を持ち、空気を送り続けて、全体を膨らます空気膜の構造である。素材はポリエステル製、長さは36m,、幅30mのサイズで、500人を収容する。
 筆者は松島や仙台でこれを体験したが、音楽が鳴り響くと、そのリズムがアーク・ノヴァに生命の鼓動をもたらし、生き物のようなホールだった。実際、アーク・ノヴァのかたちも、心臓のようである。

(いがらし・たろう)建築史家・建築批評家。東北大大学院教授。あいちトリエンナーレ2013芸術監督、第11回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展日本館コミッショナーを務める。「インポッシブル・アーキテクチャー」「装飾をひもとく~日本橋の建築・再発見~」などの展覧会を監修。第64回芸術選奨文部科学大臣新人賞、18年日本建築学会教育賞(教育貢献)を受賞。『建築の東京』(みすず書房)ほか著書多数。



 

  

   

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