【レジリエンス社会へ】熊谷組の無人化施工技術 | 建設通信新聞Digital

4月28日 日曜日

レジリエンス社会へ

【レジリエンス社会へ】熊谷組の無人化施工技術

被災地を安全、迅速に復旧/自然災害に対応し社会貢献/国内外から高い評価

 熊谷組は、遠隔操作式建設機械を使用した「無人化施工技術」に早くから取り組み、社会に貢献している。地震や集中豪雨、火山噴火に伴う火砕流、土石流などの自然災害に対する緊急対策工事は二次被害の危険性が高い。このため、無人化施工を通じて、安全、迅速に被災地の復旧に努めている。国内外から高い評価を得ており、さまざまな賞も受賞している。引き続き安全・安心の確保に向けて、技術のさらなる進化を図る。 無人化施工技術では、離れた場所から無線通信技術を利用し、遠隔操作式建設機械によって施工する。有人での施工で危険性の高い自然災害の現場で、十分に離れた場所に設置した安全な操作室からカメラ映像とICTを使用し、オペレーターが遠隔操作する。

 同社の現場における無人化施工は、1994年の建設省九州地方建設局(現国土交通省九州地方整備局)による雲仙・普賢岳噴火災害での試験フィールド制度による試験施工が初弾となった。世界的にも初となる複数の建設機械を遠隔操作し、火砕流による被害の復旧に当たった。

 その後、有珠山、岩手・宮城内陸地震の荒砥沢治山工事、鹿児島県南大隅での緊急対策工事、山口県錦町土砂崩壊、鹿児島県垂水市土砂崩落の緊急対策工事、阿蘇大橋地区斜面防災対策工事など、20件以上の実績を重ねている。

阿蘇大橋地区での斜面防災対策工事


 無人化施工では、さまざまな技術を開発し、適用してきた。2016年の熊本地震における阿蘇大橋地区斜面防災対策工事では、崩壊現場付近でさらなる崩壊が見込まれたため、安全な場所に遠隔操作室を設置する必要があった。そこで、開発したネットワーク対応型無人化施工システムを使用し、安全、確実に復旧作業を進めた。

 システムで使用する無線LANは伝送量が大きく、画像や操作のデータ、GNSS(衛星測位システム)などの情報データを一括送受信した。さらに、光ファイバーケーブル網、25ギガヘルツ高速無線アクセスシステム、各種無線LANを組み合わせ、長距離、大容量伝送を可能にした。これにより、現場から1㌔下流の安全な場所に設置し、操作した。

阿蘇大橋地区斜面防災対策工事におけるネットワーク対応型無人化施工システム概要図


 一般土木工事の土砂運搬作業で、オペレーターの負担を軽減するとともに、生産性向上のため『AI(人工知能)制御による不整地運搬車(クローラキャリア)の自動走行技術』を開発している。オペレーターによる教示運転に基づく単独の自動走行技術と、AIによる制御を組み合わせた制御技術を開発し、2台以上の車両のスムーズな運行と、パソコンによる人の介在を少なくする省人化が可能となった。阿蘇大橋地区斜面対策工事の土砂運搬に導入し、オペレーター1人による遠隔操作バックホウ1台とAI制御不整地運搬車2台による土砂積載、土砂運搬、土砂搬出の一連の作業を検証した。

遠隔操作


 ネットワーク対応型無人化施工機械に適用する遠隔操作機能をユニットハウスに装備した拡張型高機能遠隔操作室も開発した。従来の高機能遠隔操作室の利点を生かしたまま、拡張性や柔軟性、信頼性を高め、災害への対応力をさらに向上させた。操作室にはデジタル伝送対応機器を搭載し、無線LANによる第5世代の無人化施工に対応する。

 また、東京工業高等専門学校(東京都八王子市)と共同で遠隔操作建設機械の傾きや振動、音を映像と同時にリアルタイムで提供する『無人化施工VR(仮想現実)技術』を開発している。実際に搭乗した状態に近い環境をオペレーターに提供し、建設機械を傾斜地などで運用する場合でも安全・効率的な操作が可能になる。協力会社の無人化施工技術の訓練に活用し、熟練オペレーターの技能を次世代に継承する。

 現在は、ローカル5G(第5世代移動通信システム)を利用した建機2台の自動走行と4Kカメラ映像伝送の実証実験などを実施している。建設現場での技術検証など、4Kカメラを搭載した建機の自動走行の高度化・実用化に向けた取り組みを進める。

 同社は、協力会社でつくる熊栄協力会の土木系専門工事会社17社と協力し、災害時の応急復旧対応チーム『KUMA-DECS』(クマデックス)も結成している。協力会社とより緊密に連携し、頻発・甚大化している自然災害に迅速に対応する。

 DECSは「Disaster(災害)」「Emergency(緊急)」「Construction work(建設作業)」「Support(救援・支援)」の頭文字を組み合わせた。リーダー会社が中心となって、国や自治体、インフラの施設管理者などからの出動要請を受けた同社と連携し、資機材の手配や会社間の調整など、応急復旧工事への対応体制の立ち上げを迅速に進める。平時は無人化施工オペレーターの養成に取り組んでいる。

 無人化施工技術は、18年にネットワーク対応型無人化施工システムで第7回ものづくり日本大賞内閣総理大臣賞(国土交通関係)を受賞するなど、さまざまな賞を受賞している。22年9月には、インドで開かれたアジア土木学協会連合協議会(ACECC)主催の第9回アジア土木技術国際会議で、阿蘇大橋地区斜面災害復旧工事が九州地方整備局とともにACECC賞のプロジェクト賞を受賞し、海外からも高い評価を得た。

 阿蘇大橋地区の現場近くには、自然災害を伝承する碑「数鹿流崩之碑(すがるくずれのひ)」が設置されており、そこに刻まれた文言には、無人化施工技術で懸命な工事が行われたことが記されている。

 土木事業本部土木DX推進部の北原成郎部長は「人とシステムの融合により、被災地の復旧に努めるとともに、さまざまなことに応用したい。施工の効率化や生産性向上、CO2排出量の削減などのため、一般工事でエリアを区分けした上で、遠隔化や自動化施工による現場適用を考えている」とし、技術をさらに進化させている。

拡張型高機能遠隔操作室(技術研究所内の屋外実験ヤード)



建設通信新聞電子版購読をご希望の方はこちら



【レジリエンス社会へ】ほかの記事はこちらから