【BIM2023⑧】山下設計 部門間連携の流れ着実に浸透 | 建設通信新聞Digital

5月17日 金曜日

B・C・I 未来図

【BIM2023⑧】山下設計 部門間連携の流れ着実に浸透

ボトムアップの広がり重視

 山下設計が、2022年12月からBIMの全社展開に舵を切った。設計本部建築設計部門副部門長の笠木修氏は「意匠、構造、設備の各担当が連携しながら、チームとして主体的にBIMを使う流れを着実に浸透させていく」と先を見据える。BIM推進室の発足から3年が経過し、同社はBIMの新たなフェイズに入った。

 19年12月に発足したBIM推進室は現在、専任3人と兼務14人の17人体制を確立している。発足時は専任4人だったが、BIM活用の進展に合わせ、各部門でBIMを水平展開するメンバー(兼務者)を増やしてきた。同業他社では情報システム部門がBIM推進の役割を兼ねるケースが多いが、同社は最前線の設計担当者がプロジェクトを通じて推進する流れを重要視してきた。BIM推進室チーフアーキテクトの家原憲太郎氏は「ボトムアップ的な広がりを意識している」と強調する。

左から寺下氏、志村氏、笠木氏、古川氏、家原氏


 全社展開に舵を切ったのは、国土交通省で建築BIM推進会議の本格化に加え、導入プロジェクトに補助するBIM加速化事業が動き出したことなどが背景にある。同社が標準ソフトに位置付けるオートデスクのBIMソフト『Revit』を指定する民間プロジェクトも目立ち始めたことから、BIM導入の“ギア”を一段上げた。

 社内では意匠、構造、設備が連携するプロジェクトも目立ち始めてきた。BIM推進室メンバーで建築設計部門第1設計部主管の古川香散見氏は「各部門が同時に業務を進める流れをチーム内でオンタイムで共有するツールとしても可能性を感じている」と話す。自身が手がける病院建築では「BIMをデータベースに位置付けた数量確認で大幅な業務効率化を実現している」と付け加える。

 設備部門のBIM推進室メンバーでもある技術設計部門機械設備設計部主任の志村麻梨絵氏は「意匠や構造と同時並行でモデル作成が進むようになれば、ダクト位置なども従来に比べ前倒しして決められる」との期待を持っている。BIM導入の進捗は他部門に比べ遅れている設備部門だが、収まり確認などはBIMの見える化効果で「従来よりも円滑に作業が進められる可能性が高い」と口にする。

 社内教育も着実に進展している。BIM研修をスタートしたのは18年。新入社員についても意匠、構造部門でRevit操作やBIMの座学などの研修を進めている。講師を務めるBIM推進室の寺下純矢氏は「新入社員は学生時代から3次元設計に触れており、デジタルツールにも前向きで、習得のスピードも早い」と説明する。今年から設備の新入社員にもBIM研修を位置付けた。

Revitを軸に意匠、構造、設備が連携


 同社は全社展開に合わせるように、オートデスクのBIMソリューションを自由に活用できる『AECコレクション』のライセンス数を100本から250本に拡充したほか、プロジェクト関係者との共同設計・情報共有ツール『BIM Collaborate Pro』についても15本から115本に増やした。家原氏は「業務効率化や設計品質の向上に向けたBIM活用はもちろん、BIMを軸にプロジェクト関係者との協業が増えることからライセンスの拡大に踏み切った」と説明する。

 BIM活用が進む中で、笠木氏は「何のためにBIMを使うのか、その目的を明確にして取り組んでほしい。一部だけがBIMを使っても意味を成さない。BIMの敷居を下げ、組織として皆で使いこなすことが前提になる」と強調する。定期的に開く社内情報共有の場『YED』では若手がBIMの取り組みを発表するケースが増えた。社内イントラネットではBIM関連情報コーナーの充実にも乗り出す。

18年からBIM研修をスタート


 ボトムアップの広がりを重視する同社のBIMは今後どう進むか。古川氏は「データベースとしての使い方が維持管理段階にも広がる」、志村氏は「他部門との同時並行作業が進展すれば設備設計のあり方が大きく変わる」、寺下氏は「BIMによる業務効率化で生まれた時間を別の部分に使えば、より設計品質を向上できる」と考えている。

 家原氏は「このように設計者ひとり一人の自主性を大切にBIMの浸透を図っていきたい。建築の価値を示すツールとして成長してほしい」と願いを込める。笠木氏は「BIMによって裏付けられた根拠のあるデザインが創出でき、それによって建築のあり方自体も大きく変わるだろう」と先を見据えている。



【B・C・I 未来図】ほかの記事はこちらから



建設通信新聞電子版購読をご希望の方はこちら