【際立つ黒い直方体】大阪新美術館基本設計の最優秀提案者 遠藤克彦氏に聞く | 建設通信新聞Digital

4月30日 火曜日

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【際立つ黒い直方体】大阪新美術館基本設計の最優秀提案者 遠藤克彦氏に聞く

遠藤克彦氏(遠藤克彦建築研究所)

 大阪市が中之島地区に計画している(仮称)大阪新美術館の基本設計を担当している遠藤克彦氏(遠藤克彦建築研究所)。ことし2月、国内外から68者がエントリーした同美術館の公募型設計競技で最優秀提案者に選ばれた。ラージファームや著名建築家を破って当選を果たし話題になっただけでなく、遠藤氏が提案した黒い外観をまとう「浮力を持って浮かび上がる美術館」も強いインパクトを与えた。4月には大阪市内に事務所を開設、新美術館の設計に取り組む遠藤氏に、プロジェクトにかける思いなどを聞いた。
 コンペティションを振り返り「最善を尽くすことだけを考えた」と話す。設計競技が公告されてすぐ、スタッフたちとともにスタディに取りかかった。手掛けた数は40以上、大量のスタディを作ることで「間違ったアプローチを事前にあぶり出すことができた」。要項に盛り込まれた条件に対し「求められているものを丁寧に、愚直に表現する」ことを心掛けた。入念な下準備の上「失うものは何もない。胸を借りるつもりで」プレゼンテーションに臨んだ。

◆都市に開かれた空間

新美術館パース

 美術館には相反する機能が求められる。それは「美術品を守るために閉鎖的な空間であると同時に、都市に対して開かれた空間であること」だ。この課題に対する遠藤氏の回答が「立体的に配置されたパサージュ空間」だった。「美術館に都市を引き込むための仕掛け」であるパサージュを吹き抜け空間を介して立体的につなげ、「人と活動が交錯する都市のような美術館」を提案。独自の視点で高い評価を獲得した。
 自然の光が降り注ぐパサージュ空間を引き立たせる「黒い直方体」は、見る者に強烈なインパクトを与える。「悩んだけれど、塊感を表現するには白よりも黒が良い」と判断した。「建築とは、人の営みをデザインすること。パサージュ空間からこぼれ落ちる光は、人の営みそのもの。それを表現するには黒い直方体しか考えられなかった」とも。

◆状況を建築する

 氏が常に意識するのは、「状況を建築する」こと。設計を通じ、解決しなければならない地域課題を見据えるその姿勢は、遠藤氏なりの「公共に対するコミット」でもある。新美術館のプロジェクトに選定されるまで、ほぼ毎月のようにコンペ・プロポーザルに応募していた。「複数のプロジェクトに同時に取り組むのは大変。一方でバランス感覚が養われ、所員全体のレベルが格段にアップする」と話す。今回の新美術館プロジェクトには、東畑建築事務所が協力事務所として参画している。アトリエ事務所とラージファームによる異例のコンビネーションながら、メンバーの雰囲気はすこぶる良いという。「チームとしての一体感をもって取り組むことができている。東畑建築事務所にはすごく感謝している」
 現在、大阪と東京を行き交う忙しい日々を過ごす。「まちの建築を見たりゆっくり過ごす余裕はまだない」が、大阪のまちについては「思っていた以上に住みやすい」と好印象のよう。
 今後について「必要とされるのであれば、どんな建築にもチャレンジしたい」と意欲を燃やす。「いまは新美術館にかかりきりだが、いずれ関西で新たなプロジェクトに参画したい。そうすることで、今回コンペで選んでもらった関西の皆さんに対する恩返しになれば」と話す。

 (えんどう・かつひこ)武蔵工大(現東京都市大)卒業後、東大大学院に進む。1997年に事務所を設立。2007年に株式会社化し現在に至る。
 大学院では原広司氏の研究室で学んだ。「学生のうちに事務所を始めるのが原研の伝統」だったと笑う。住宅設計などを手掛ける一方、愛知県豊田市「自然観察の森」提案競技(07年)をきっかけに公共建築での実績を重ねてきた。
 神奈川県出身、47歳。

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