遍照広尾保育園（東京都渋谷区）の屋上で栽培中のイチゴ
RooFarm(ルーファーム、東京都渋谷区)は、イチゴの露地栽培キットの制作・販売を手掛け、都内幼保施設の屋上に『屋上苺農園』として展開する。同社の梅原義彦代表は「どうすれば都市の屋上緑化を進められるか考え、ビルの屋上でいろいろな作物を栽培してきた。その結果、収穫物の市場性やビルオーナーの反応、栽培のしやすさからイチゴ栽培が最適だ」との考えに達し、イチゴによる都市緑化の加速に取り組んでいる。
◇ゴルフ、大震災から屋上緑化に
梅原代表が屋上緑化を目指すきっかけは、ゴルフのティーチングプロとしての活動だった。「都会に天然芝のゴルフ練習場を作りたいと思い、都内のビルの屋上数カ所に設置した。そのうち勝どきのビルで用途変更が必要になった。芝生や農作物の栽培などさまざまな用途を試したところ、イチゴ農園が屋上緑化の普及にもっとも向いている、との感触を得た」と言う。
屋上緑化の必要性を強く意識した契機は、2011年3月の東日本大震災だった。ビルの屋上に人が避難する光景を見て「もし暑い季節だったら、ビルの屋上は50度を超える場合もあり、熱中症のリスクが高い。屋上緑化を広めればリスクを低減できる」と考えた。緑化した屋上では、芝生による子どもの遊び場、自然農法による野菜の栽培などを手がけた。
イチゴは近郊のスイーツ店に納めている
◇東京発イチゴが持つ強み
イチゴ栽培は「試すと意外と簡単だと分かった」ため、ビルオーナーに提案を開始した。すると「イチゴの持つかわいらしいイメージのおかげか、オーナーのほとんどが興味を示す。芝生や他の農作物と比べて非常に高い関心を得られる」と手応えをつかんだ。19年秋に幼保施設から展開を始めた。
現在、イチゴの品種は東京都農林総合研究センターが開発した東京おひさまベリーを採用する。市場に流通するイチゴの大半はハウス栽培で農薬を使用するのに対し、金子隆大業務執行社員は「無農薬かつ露地栽培で、スイーツ店にも納められる品質があるため希少価値が高い」と強みを説明する。「東京に来たら東京産のイチゴを食べよう、と地域のブランディングにもつながれば」(金子氏)と期待する。
成育中のイチゴ。花は虫除けのため混植しているマリーゴールド
◇「失敗させない」「収穫物」が不可欠
同社の社員は栽培キット(プランター、土、イチゴの苗)の設置と定期的な見回りを行う。ビルの関係者は水やりのみを行う。屋上緑化を長続きさせるために▽失敗させない▽維持費がかからない▽収穫物がある――と三つのポイントを意識する。
栽培キットは、農薬と化学肥料を使わない炭素循環農法や根腐れしないプランターを採用し、水をやっていれば基本的に失敗しない仕組みを開発した。梅原代表は「一度でも枯らしてしまうと、その後再び緑化に取り組むビルのオーナーは少ない。実が成長して収穫できることも不可欠で、形のあるリターンがないと継続してもらえない」と言う。
ことし５月の収穫のようす
「園児が120人いる場合、プランターを60個設置して、イチゴの苗120本を植える。プランターは1個当たり0・1平方メートルの設置面積で、重量は2キロ未満となっている。夏に園児が水遊びをするときなど、屋上の面積を広く確保したい場合にプランターを手持ちで移動できる」など、簡単に設置・維持ができることを重視して栽培キットの改良を進めている。「ビルの条件はほとんど不問で、強いて言えば、屋上が高すぎるとミツバチが届かず受粉できないが、中層ビル程度であれば栽培できる。プランター10個程度の小規模から始められる」。商業施設やオフィス、共同住宅などへの拡大にも意欲を示す。
（うめはら・よしひこ）１３年にビル屋上での農作物栽培を始める。東京都江東区勝どきの「太陽のマルシェ」参加を機に東京中央食育事業組合を立ち上げ、野菜の自然農法を通じた食育の普及に努める。２１年にルーファームを設立した。
◇収穫物販売、他地域への拡大を目指す
当面は、農園の拡大対象は既存ビルを中心とする。夏だけの設置など、季節限定の需要に対応するレンタル事業も検討する。イチゴの販路拡大など、収穫物を活用するビジネスパーソンを増やしていきたいと話す。
将来的には「野菜や果物を自分の手で育てて食べる体験が不足しがちなことや、フードマイレージの観点から農産物の自給率向上が望ましいことは、他の都市も同じだ。各都市に適した農作物で屋上農園を広げたい」(金子氏)とし、将来的な東京以外の都市への展開も視野に入れる。
