【本】核心は"部分から全体へ" 『日本建築の特質と心』著者・枝川裕一郎さんに聞く | 建設通信新聞Digital

4月30日 火曜日

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【本】核心は“部分から全体へ” 『日本建築の特質と心』著者・枝川裕一郎さんに聞く

『日本建築の特質と心 創造性の根源を探る』(鹿島出版会 2500円+税)

 「日本建築の特質を考えていくと、『部分から全体へ』という根源的なつくり方やとらえ方が浮かび上がってきます。それがこの本の核心です」
 著者の枝川裕一郎氏はそう話し、日本のものづくりが部分最適からトータルベストをつくり出せるスキルを持ち合わせていると指摘する。
 枝川氏は9年前、ドイツで今回の著書につながる『JAPANESE IDENTITIES』(英独文併記、JOVIS Verlag,Berlin)を先行して出版している。これは、写真を主体に建築を通して日本と西洋の文化の違いを独自の切り口で明らかにしたもの。
 「この本を出した後で、よりロジカルに日本建築を解説するものを書きたいと思っていました。それで7年前、東大で論文にまとめようと思って隈研吾教授に相談しまして、英語の論文『Distinctive Features of Japanese Architecture and What Is at the Root of Japanese Creativity』を書いて、昨年博士号を取得することができました」
 『日本建築の特質と心』はこの論文を基に書き上げた。隈氏は「日本建築の特質が『部分から全体へ』の設計手法にあることを説き明かし、豊富な事例に触れながら『日本らしさ』とは何かにたどりつく画期的論考」と推薦文を寄せている。

枝川裕一郎さん

 1、2章ではまず、日本建築の特質として個々に指摘されている点を12項目に整理した。自然との共生、素材へのこだわり、非対称性、小空間への傾注、全容を見せないなどである。そしてこれらの背景にはいずれも「部分から全体へ」の流れがあることを明らかにしているのが、独自の視点だ。
 「非対称性で言えば、部分からつくっていけば当然のことながら対称形にはなり得ない。非対称で全容を見せない典型例が桂離宮です。一つひとつの部分のつくり込みに最大限の情熱を注いで、結果として全体ができています。回遊式庭園として全体を見せない仕掛けが顕著で、園路を進むに従って光景が変化します。部分からトータルベストへのチャレンジが明らかです。そして日本の庭園はそもそも、自然景観の再現であるため人工的な対称形にはならないんです」
 枝川氏はこうした日本建築の特質の海外発信にも注力している。
 「日本人の通訳ガイドさんへの講習のほか、海外の建築グループの訪日でセミナーの講師も依頼されるようになりました。今回の本も海外で英語版の出版を考えています」 「Japanese Identities(日本建築創造の感性の特質)」を体現するさまざまな建築的表現に焦点を当て、写真を多用しロジック展開している。

■写真で創造性鼓舞、文章でロジック展開
 著者は三菱地所設計の大阪支店長として退職するまで、数多くの設計を手がけ、その間、積極的に日本各地の建築を写真に収めてきた。これらの解説テキストを執筆する際、各シーンの中から日本建築の特質が浮かび上がってくるのだという。この特質には共通点があった。それがこの本のテーマでもある「部分から全体へ」という創造性の根源である。豊富な事例とともに根源がつまびらかにされる。

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