【レーザー光で海の経済圏構築】トリマティス 新会社「アクアジャスト」 | 建設通信新聞Digital

5月4日 土曜日

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【レーザー光で海の経済圏構築】トリマティス 新会社「アクアジャスト」

動くニジマスに合わせて撮影する水中用LiDAR。10fps(1秒間に10回)撮影できる

 

島田CEO

 LiDAR(レーザー式測距装置)など光制御技術を使う製品の開発や販売を手掛けるトリマティス(千葉県市川市)の島田雄史代表取締役CEOは、海中環境を可視化する事業を行う新会社アクアジャストを設立し、10月から本格始動させた。島田氏は「海にデータのネットワークを構築し、新しい海の経済圏構築を目指す」との将来像に向け、海中の構造物やCO2濃度をレーザー光で測定する機器、水中ドローンを開発している。

◇海中でのレーザー光使用のハードル

 島田氏は光通信技術の企業で技術営業に従事した後、2004年にトリマティスを設立。その後、海洋研究開発機構(JAMSTEC)を通じて水中でのレーザー光使用の可能性を知り、16年から事業化に向けて動き始めた。同社の水中に関連する事業は今後アクアジャストに移行する予定だ。

 現在、海中を測定する主な手段は音波である。レーザー光は空気中での測定で広く使われ音波より機器が安価だが、海面や海中の状況によって通りやすい光の波長に違いがあるなどの理由で、空気中でのノウハウがそのままでは使えない。同社はこの課題を解決する計測機器や水中ドローンの改良に取り組んでいる。

 計測では音波やカメラと併用する予定だ。トリマティスが動き始めた16年ごろは「音波以外あり得ないという雰囲気だった」ものの、近年はその雰囲気も変わっているという。

 一方、計測機器を搭載する水中ドローンは「学術研究用のハイクラスの機体や、趣味用の機体は既にあった。その中間のコストと性能を満たす事業向けの機体がない」と分析する。

◇水中構造物や養殖魚を計測

 アクアジャストがまず狙う需要に、水中構造物の検査がある。「船や橋脚の表面には、フジツボや他の船と接触してついた傷がある。これらをレーザー光により1cmスケールの精度で計測する。従来は10cmスケールが一つの基準になっていたが、それ以下の小さな傷やフジツボがどう影響するか高精度の計測で明らかにしたり、支障があれば早期発見したい」

ニジマスを撮影した3D点群データ画像。計測機器から近いほど赤く、遠いほど青く表示


 不規則に動く対象も計測可能で、養殖施設向けに魚の生育状況を把握するツールとしての需要も見据える。物体の表面以外の計測も原理的には可能で、同社は海中のCO2濃度やマイクロプラスチック計測も目指す。

◇深海から浅い海への応用が課題

 海中で効率的にデータを集めるために、水中ドローンとデータをやりとりする水中無線通信技術も開発する。深海では水深800-900m垂直100mの通信速度毎秒1ギガビットの通信に成功している。一方、浅い海では太陽光によるノイズや海水の違いがレーザー光などへ与える影響が大きい。現在は洋上風力施設メンテナンスや大型船舶の検査向けに、水深40-60m程度での安定した計測・通信に向け改良に取り組む。

 無線の高速通信が実装できれば「洋上風力施設と親機ドローンを有線接続しつつ、親機から複数の子機ドローンを給電・制御する。洋上風力施設同士もネットワークで結ぶ。施設をハブとして海の効率的な計測・活用が可能となり、海の経済圏が構築できる」と将来像を描く。

洋上風力施設メンテナンス用、大型船舶の船底検査用の2タイプから開発に着手

◇コンソーシアム通じ連携深める

 アクアジャストは現在、センサーと一体型のドローン開発に向けて実証実験を進めている。24年6月にも本格的な開発に着手する予定だ。

 実現に向け、島田氏が代表を務めるALAN(AQUA LOCAL AREA NETWORK)コンソーシアムを通じて、東洋建設や五洋建設といったマリコンなどの企業、研究機関と技術的課題やニーズを共有している。

 

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