岐阜県垂井町の工和製作所新工場 | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

隠れた木の力シリーズ

岐阜県垂井町の工和製作所新工場

国内最大級木造工場で圧倒的な快適さ実現/SDGs意識高揚に一役

鉄道車両のアルミ窓枠などのアルミプレス加工品を製造する工和製作所(宮崎治己社長)が岐阜県垂井町に建設した国内最大級の木造工場が完成して8カ月。一見すると木造には見えない外観だが、従業員はその圧倒的な快適さに驚きを隠さない。2×4(ツーバーフォー)による気密性の高さで夏は涼しく、冬は暖かい環境を実現。空調稼働の少なさによるランニングコスト低減など多様な面でメリットを実感している。工場建設をきっかけに、新規の仕事の依頼が増えただけでなく、意匠設計・プロデュースを手掛けたHAGIホーム・プロデュース(板谷勇社長)とともにSDGs(持続可能な開発目標)への意識も高まっている。

内装仕上げ前の最大スパン部。大人13人が手を広げて立てるほどの無柱空間を実現

建設経緯 「先駆けに」の言葉で固定観念打破

工和製作所は1976年に創立後、84年に同町内に本社工場を建設した。その後、規模の拡大に伴い1997年に第一工場、2000年に第二工場を立ち上げた。いずれの工場も近隣ではあるが、別の場所に立地し、部品の保管などで工場間を行き来する必要があり、宮崎社長は効率の悪さに悩んでいた。20年ごろには3工場を統合できる新工場用の土地を確保していたものの、「工場建設のために見積もりを取ったら、鉄骨など物価の高騰でとても建設を決断できる価格ではなかった」(宮崎社長)と語る。その矢先にコロナ禍が始まり、経済産業省と中小企業庁が「事業再構築補助金」を打ち出した。6m部材の加工が可能な機械の導入を目的に応募して採択された。「ここがチャンス」とみた宮崎社長は、再度、S造の建設会社に見積もりを依頼したが、やはり価格が高く、以前から親交のあったHAGIホーム・プロデュースの板谷社長に相談した。
板谷社長は相談を受ける1カ月ほど前に、2×4の木造工場の建設を手掛けるシガウッド(滋賀県長浜市)の木造農業用倉庫を見学しており、「規模と内容次第だが、木造の選択肢もある」と宮崎社長にぶつけてみた。板谷社長も手掛けたことがなかった規模の木造非住宅建築になるが、「不安を抱えたままで木造を持ちかけたわけではなく、ロングスパンの大空間を木造でできることを、実際に見て、体感して納得していたから、ある程度、確証を持って提案できた」という。
提案を受けた宮崎社長は、木造の方がS造より価格が安かったが、幅16m、長さ50mという大空間の実現性への不安もあり迷っていた。そんな時、板谷社長の「木造でこんな大きな工場をつくった事例は見たことがない。どこかが先駆けにならないと、結局、『工場はS造』という固定観念を打ち破れない」という言葉に背中を押され、木造工場の建設を決めた。

室内環境は?ーー底冷え工場がエアコン不要に

工和製作所
宮崎治己社長

以前の工場は、冬になると底冷えがして、従業員はすごい厚着をして作業していた。木造になって、冬季の暖かさが全然違う。外の気温が5度以下なのに、室内は機械熱などもあり、エアコンを付けなくても、16-17度に保たれている。夏も猛暑だったが、思っていたより室温は上がらず、仕事がやりやすかった。
従業員 冬が、信じられないくらい暖かい。木の恩恵をめちゃくちゃ感じている。(新工場になって)毎日、ありがたいと思っている。
板谷社長 2×4は気密性が高く、断熱性能も高いため、室内環境の良さはある程度、想像していたが、ここまで快適になるとは思っていなかった。S造は、躯体の鉄の冷たさや熱さがそのまま室内に影響するが、躯体が木造のため熱を伝えにくく、外気の影響が少ない。夏も、通常の工場は排煙窓を付けるため外気がそのまま入ってくるが、窓を付けない設計にしたので、外気の影響がなく涼しい。
中村常務 音の面でも、さまざまな機械が動いている工場内が70-80dBでも壁一枚隔てた玄関は60dBにまで下がる。1階で機械が動いているのに、2階の事務所ではほとんど音が聞こえない。木の構造材が“あらわし”にならないので、S造の工場と外観は同じだが、(温度や音など)室内の環境は全然違う。しっかり中身の良さを伝えたい。

コストは?ーー運用費は圧倒的減価償却も半分

シガウッド
中村修三常務

宮崎社長 建設費は物価高騰もあり、S造の方が高かった。ランニングコストについては、以前のS造工場の場合、暖房の暖気がすべて外に逃げている状態だったが、木造にしてから冷暖房の稼働時間が大幅に減った。さらに、減価償却期間がS造は31年なのに対して、木造は15年という点がかなり効いている。
板谷社長 ランニングコストや減価償却に加えて、地震保険も、2×4であれば準耐火木造になるので、通常の木造建築物と比べて保険料が抑えられる。

火災の不安は?ーー木だから火に弱いは間違い
宮崎社長 実際にS造も木造も燃えてしまえば止められない。従業員が逃げる時間を確保できることが確認できたので、不安は解消された。
中村常務 木だから火に弱いという固定観念が広がりすぎている。 2×4は石膏ボードを貼るため、構造的に耐火性が高く、 防火区画内で火の広がりを抑止できる。そもそも鉄は熱せられると強度が落ちるが、木は表面が炭化するので強度を保てる。設計時の避難安全検証法で避難時間を確保できることも確認した。

施工のポイントは?ーーLVLトラスで施工計画に配慮

HAGIホーム・プロデュース
板谷勇社長

中村常務 基本的には一般流通材(2×4規格材=ディメンション・ランバー)を使用しているため材料の手配面の不安はなかったが、ウッドショックのまっただ中だったため、設計段階から材料を手配して対応した。LVLトラスの現場組みでは、材料の配置や作業工程など施工計画と安全作業に特に注意した。

今後の木造非住宅の展開は?/良さ発信で“できる”を普及

板谷社長 用途によっては絶対に2×4の木造の方が良い空間を提供できる。木は、弱いと考えられがちだが、載荷荷重も1㎡当たり300kgまで確認できており、2階建てでも心配ない。今回の工場完成後も同じ町内で物流会社の倉庫で木造の引き合いがあった。燃える、弱い、スパンを飛ばせないという固定観念を打破し、良さを発信して広まればと思う。とにかく、良さを体感してもらうのが一番だ。
(木造工場の見学や快適さの体感は、HAGIホーム・プロデュースまで。電話・0584-47-8117)


中村常務 どこまでの大きさまで2×4の木造で対応可能か、知ってもらうことが最も大事だ。このため、当社では滋賀県長浜市に建設した木造倉庫を見学していただいている。2×4は、面構造の6面体で非常に強固だ。気密性にも優れている。規格が制度化されているため、一定の品質を確保した施工会社の全国的なネットワークができる。木造に対する固定観念を変え、木造でできるということを分かってもらうため、当社では2×4木造非住宅建築を『DE●(●は木に○)RU(デキル)』として発信している。

SDGsの展開ーー「推進パートナー」に登録
SBT認証、見学会も開催/工場建設契機にSDGs活動

新工場は、延べ2504㎡で、326m3の木材を使用し、その結果、1世帯当たり64年分のCO2排出量に相当する240tCO2の炭素貯蔵ができた。工和製作所とHAGIホーム・プロデュースは新工場建設を機に岐阜県の「SDGs推進パートナー」に登録し、登録210事業者のうち53事業者が選ばれたゴールドパートナーに2社そろって選ばれた。工和製作所は、SBT(サイエンス・ベースド・ターゲット)の認定も取得。「やれることは何でもやろう」(宮崎社長)と、HAGIホーム・プロデュースやシガウッドと協力し、工場建設中に近隣の小学校の生徒を招いてSDGsの勉強もできる見学会や地元金融機関主催のマルシェへの出店など、積極的に取り組んでいる。
木造工場の建設が、地域の企業によるSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みを後押しした。

新工場の外観。外見はS造と変わらないが、室内は圧倒的に快適になった


12月下旬の雪が舞う日でも、室内はエアコンを稼働せず軽装で作業できる


平屋部のトラスを設置している状況


建設現場に近隣小学校の子どもを招いて見学会を開いた

【建築概要】
▽工事名称=株式会社工和製作所様工場新築工事
▽建築主=工和製作所
▽総合プロデュース・意匠設計=HAGIホーム・プロデュース
▽施工=シガウッド
▽建設地=岐阜県垂井町綾戸
▽設計条件=積雪90cm
▽主要用途=工場
▽構造=木造枠組壁工法地上2階イ準耐火建築物
▽敷地面積=3069.19㎡
▽延べ床面積=2504.09㎡
▽最大スパン=平屋部25.48m+軒だし3m、2階部最大16.38m
▽軒高=8.79m
▽最高高さ=11.27m
▽工期=2022年8月-23年4月

カナダ林産業審議会


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カナダ林産業審議会(COFI)は、ツーバイフォー工法や木質トラス構造、それらに使用されるSPF材など、木造建築に関する普及・啓蒙活動を行っているカナダの非営利団体です。

中・大規模木造建築設計セミナー 東京・大阪で開催(2月27日、28日)。詳しくはウェブで。
https://www.cofi.or.jp


カナダ木材製品全般の普及・促進