宇野氏は「昨年10月に急逝した小嶋一浩氏(CAt)と一緒に考えていた中で出てきたアイデアが、建築が際立つのではなくフィールドと共生する建築だった」とコンセプトを紹介。約11haの広大な敷地を生かし、オーガニック(有機的)な外部空間とアーティフィシャル(機能的)な内部空間、庇がある半外部空間の連続によるさまざまな学びの場と居場所を創出する構成を示した。
さらに学校や寮の建物は、機能のまとまりである“クラスター”とそれらをつなぐ“コネクター”の考えに基づく小さな建築の集合体として計画。「自然と建築が融合するリゾート建築のような環境」(宇野氏)を目指したという。
教育委員会では、島全体を学びの場とするさまざまな教育プロジェクトを考えており、学校の中心には地域に開放する“みかん広場”を配置。少人数制の国際バカロレア・ディプロマ・プログラム(IBDP)に対応するため、移動空間も授業に利用できるスペースとし、建物全体のオープンな空間が雁行しながらつながる形態は「教室というフレームが消えるように、カリキュラムの流動的な部分は家具でつくりこんでいけるように設計した」(同)という。建物中央部には「小嶋氏と初期段階から考えていた」というハイサイド窓やトップライトによる「光と風を導く壁」が建物を特徴づけることになる。
共同生活の場となる寮もクラスター(ハウス、ユニット)とコネクター(生活の庭、ラウンジ)の考えで計画されている。「生活自体が1つの教育」(土井氏)と語るように学校のコミュニケーションを補完する場となる。また、エントランスで男女のエリアを分けて、事務室から各ハウスを見守れるような配置とした。
「生徒たちの逃げ場所になるような場所も必要。さまざまな場所のスケッチを描いて1人になれる場所づくりにも気を使った」(土井氏)と、敷地全体でさまざまなコミュニケーションを促す場をつくると同時に、プライバシーに配慮した配置・施設計画を練り上げた。
新たな教育を実践する学校のあり方をめぐる議論では、プロポーザルの審査委員長を務めた内藤氏が「応募案の中で最も建築が統制的ではない新しい可能性を示した提案だった」と振り返り、基本設計の内容を受けて「森の中に空間が連続するような、形がおもてに出てこない建物として成熟し、記憶に残るプロジェクトになってほしい」と広島県による教育への挑戦的な取り組みを高く評価した。
五十嵐氏は「先端的な取り組みは壁で隔離されることが多いが、この学校は地域との連携を持っている。うまく関係性を保つことで、多様性に応えてほしい」と地域と協働していく今後の展開に期待を寄せた。
宇野氏は、少人数教育の学校の中で多様性を受容することの難しさに言及しつつ、「大きなビジョンで学校の中だけに閉じないことが大切だ」と島と学校との関係性を強調。土井氏も「建築をつくる側が決めた枠組みからはみ出した時に豊かさが出てくる」と建築の“余白”が持つ意味の重要性を唱えた。
最後に宇野氏は「良い建物とは良い時間を過ごせる場所をつくることだ。誤解を恐れずに言えば小嶋氏が好きだった心地よさを持つリゾート建築のような建物であり、この取り組みを彼に伝えたい」と盟友に向けて思いを語った。