◇土木の誇りと魅力 自らの言葉で発信
A 土木学会の田中茂義会長が、2023年6月の会長就任以来、議論を重ねてきた「土木の魅力向上プロジェクト」の成果として会長メッセージを発信した。
B 土木従事者が働きがいを感じ、生き生きと活躍できる環境の整備が使命だとしている。役割と重要性が社会から認知され、土木の世界に入りたいとリスペクトされる状況になったとき、技術者のやる気と働きがいが大きくなり、ステータスアップも実現するとした。
C メッセージは、▽土木の魅力発信は「全員リレー」で▽土木史に学び、技術と志を伝承する▽個人の能力と業績を評価し、明示する▽教育現場への参画▽イノベーションで未来を創造する–の5項目で構成する。一人ひとりの土木技術者が誇りを胸に使命を果たすとともに、自らの言葉で魅力を発信する必要性などを説いている。
B プロジェクトは、魅力ある土木の世界の発信と、土木のステータスアップを目指した取り組みをテーマに、土木の担い手を確保することを目標に事業を進めてきた。これまで、高校生・高等専門学校生が大学の研究室を訪問するイベントの実施や、コンセプトムービーの公開などを展開している。9月に開かれる土木学会全国大会でも活動をアピールする予定だ。
土木学会「土木の魅力向上プロジェクト」のコンセプトムービー
C 土木学会に所属のある大学教授は、能登半島地震をきっかけに、「特に地方を中心にインフラの維持には担い手確保が必須と改めて感じた」と話していた。
B 土木従事者は、災害対応や新たな土地の開発など社会課題を解決でき、国土を形成する重要な役割を担う。土木に携わることで誇りを持ち、生き生きと働く様子が世の中に伝わる。会長メッセージを通じて、国土を担う仲間が増えてほしいと感じた。
◇人材奪い合い 地域建設業から悲鳴の声
A ところで、今年3月卒業の高校生の求人倍率が3.98倍となり、厚生労働省の統計開始以来、最も高い結果を記録した。新卒の高校生を採用活動の主戦場としてきた地域建設企業や元請けの協力会社などからは近年、悲鳴に近い声を聞く。
D ある地域建設企業の経営者は「30人クラスのうち半分の15人が就職を選ぶが、建設業に入職するのはその15人のうちの半分にも満たない」と話していた。2桁に満たない人材を地域の建設企業が奪い合っているという。
E “売り手市場”が続くが、こうした採用活動での窮状は古くて新しい問題でもある。
C そうとも言える。しかし状況は年を追うごとに深刻化しているようだ。厚労省の「高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る求人・求職・就職内定状況」(3月末現在)を分析すると、興味深い数値を見て取れる。高校新卒者の産業別求人状況で建設業は23年度に8万6832人だった。産業別の公表を始めた14年度の4万3869人と比較すると約2倍まで増えた。一方、23年度の高卒新卒者の求職者数は14年度比約3割減の12万1123人だった。
B なるほど。年々厳しくなっている状況もうなずける。
E こうした中、大成建設は、協力会組織の倉友会を通じた支援を強化している。採用支援の民間サービスを会員企業が割引価格で利用できるようにしたほか、任期制自衛官や外国人などを視野に入れた取り組みにも注力考えだ。
D 元請けによる協力会社支援はこれまでもあったが、資金を提供してまで支援するのは、新しいフェーズに入ったと言えるかもしれない。
A 大手企業でも一部では高卒採用を始めたと聞く。地域建設企業はますます厳しい状況に追い込まれそうだ。