東畑建築事務所が遠藤克彦建築研究所とJVで設計を進めている延べ約3万㎡の複合施設は、BIM連携によるリアルタイムな共同作業を実現している事例の一つだ。D×デザイン室メンバーで構造設計室主管の山本敦氏は「外部の設計事務所や協力事務所との協業に向けてBIM連携の効果は大きい」と説明する。
遠藤克彦建築研究所とは東畑建築事務所の名古屋、東京オフィスの設計担当が連携し、オートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を基盤に、BIMソフト『Revit』による設計体制を確立している。
このように同社ではACCを基盤にしたBIMデータの連携が拡大している。構造協力事務所のベクトル・ジャパン(東京都中央区)とはワンファイルモデルによる協業に取り組む。東畑建築事務所の意匠担当とベクトル・ジャパンの構造担当がACC上のモデルを『BIM Collaborate Pro』を使ってリアルタイムに確認し合う流れで作業を進めている。
構造業務では協力関係にある武設計(福岡市)ともACCを使った協業を展開している。山本氏は「お互いの作業進捗が明確に見えるため、本音のやり取りがリアルタイムで繰り広げられ、業務をマネジメントするわれわれの側には安心感が生まれている」と実感している。
国土交通省が設計から施工までの一貫BIMを試行導入する長野第1地方合同庁舎では、設計業務を担う同社がBEP(BIM実行計画)を作成し、共通データ環境(CDE)としてのACCを基盤に発注者も含めた約20人と情報共有を進めてきた。成果品として、BIMデータと併せて施工への連携を考慮したモデルの説明書を作成した。
プロジェクトを通して高度なBIM活用が進展する中で、ACCのようなクラウドプラットフォームについて、山本氏は「情報共有の有効なツール」と考えている。以前はプロジェクト関係者間でモデル確認や干渉チェックなどを行うため、ビューア機能として活用するケースが多かったが、統合モデル化に加え、モデルの指摘事項などを共有し合うコラボレーションツールとしての使い方に進展している。修正指示や修正後の確認などが一元化され、その履歴を皆で確認し合えることで、効率化と品質向上に大きく寄与する。「関係者全員にメリットをもたらすことから、ワークフローの変革を働き掛けていきたい」と付け加える。
今後は、施工者にBIMデータを引き継ぎ、工事にどの程度まで利活用できるかも検証する計画だ。民間プロジェクトでは設計BIMデータを施工者に引き渡すケースが少なく、しかもBIMを本格導入する施工者でも着工前までに自らの手で図面をもとにBIM化する流れとなっているだけに「このプロジェクトを通して一貫したBIMデータ活用の利点や課題を検証していきたい」と考えている。
他の官公庁プロジェクトでは、BIM積算連携も試みた。Revitから部屋、建具、躯体の情報を日積サーベイのBIM対応建築積算システム『HEΛIOΣ(ヘリオス)』にダイレクト連携することで積算数量の把握が大幅に効率化した。日積サーベイとは部屋情報の在り方などを事前に協議し、より効率的な流れを整えた。
東畑建築事務所は、進展し始めたBIM導入の流れをさらに円滑に進めようと、品質管理マネジメントシステムにBIMのプロセスを当てはめるなど、社内のBIM環境整備にも力を注ぐ。D×デザイン室長の上羽一輝氏は「BIMを軸に業務のワークフローが回り始めている」と手応えを口にする。