内装工事業として幅広い分野で活動する船場では2023年から重点顧客や注力分野へのBIM対応を強化している。重点顧客は商業系を中心に10社を数え、注力分野はオフィス、GMS(ゼネラルマーチャンダイズストア)、量販店など多岐にわたる。建物用途を問わずニーズが高まっているトイレのリニューアルもその一つだ。
顧客の中には、店舗デザインの空間表現ルールが厳密に定められているケースが多い。社内で全面導入するオートデスクのBIMソフト『Revit』を効果的に使うための準備として、顧客ごとのテンプレート整備に力を注いでいる。BIM CONNECT本部の大倉佑介戦略企画部長は「これにより平面プランが決まってから1日もあればBIMデータを作成できるようになった。顧客との合意形成は従来よりも格段に早まり、それが設計品質の面でも向上している」と強調する。
ファミリも細かな部分まで整備し、建具や冷蔵ケースなどの造作物についても3次元データを取りそろえている。顧客の空間サインやロゴデザインが修正された場合にも迅速にデータを更新する流れを確立した。野畠滉戦略企画部チーフは「BIMデータベースを社内にオープンにすることで、より効率的な設計が実現している」と付け加える。
既に社内には1000種類以上のファミリデータや関連図面を整備している。BIM CONNECT本部が主体的にBIMデータ化を担うが、ジョブローテーションで設計担当が本部に配属される機会も増えており、設計担当自らがプロジェクトを進めながら、必要に応じてファミリデータを作成するケースも広がっている。
BIMを導入した2019年当初は、ファミリの作成などを外注していたことから、データ作成を負担に感じる設計担当も少なくなかった。現行中期経営計画で、最終24年12月までに設計職の70%以上が基本技術を習得する具体の達成目標を掲げたことで、社内のBIM意識は高まり、BIMへの活用が一気に進み始めた。
ファミリやテンプレートの整備が進むにつれ、設計担当は意匠モデルを作成することに専念できるようになった。大倉氏は「設計担当のBIM活用のハードルが下がり、BIMを使ったより効率的な設計ができるようになった。これによって業務の進め方だけでなく、設計提案の部分でも大きな変化が見られるようになった」と説明する。
これまでは詳細な図面を示さずに設計のプランを顧客と打ち合わせしていたが、現在はBIMを活用したビジュアライゼーションによって事前にイメージ空間を示した上で、設計を具体的に進める流れになっている。多喜井豊執行役員BIM CONNECT本部長は「顧客と空間のイメージを合意した上で、設計の作業を進められるようになった。顧客のイメージをよりダイレクトに表現でき、しかも設計時の手戻りも大幅に減っている」と強調する。
BIM導入から5年が経過し、社内への普及は大きな進展を見せている。BIMをデータベースとして捉え、その基盤となるプラットフォームをしっかりと構築したことが、社内のBIMデータ活用の速度を引き上げている。秋山弘明取締役執行役員コーポレート担当が「BIMの進展が利益率の向上にも貢献し始めている」と明かすように、BIMの導入をきっかけに業務プロセスにおけるデータの流れがより円滑になり、それが業務効率化の成果として発揮されてきた。