三菱地所設計では東京・大手町、丸の内、有楽町の大丸有地区の既存ビル22棟をBIMモデル化し、都市の視点からBIMデータをどう活用すべきかを検証した。各施設の図面を基にモデル詳細度(LOD)200で3次元モデルを作成し、テナント店舗の情報や昇降機などの可動設備、トイレ、屋外広告物に関する情報などを別のデータベースに整理した上でモデルとひも付け、ウエブブラウザー上に可視化した。
BIM推進室の平野暁子チーフアーキテクトは「ビル単体でなく、街区全体の視点から情報を利活用することが狙い」と説明する。人の流れと施設情報を連携することで、災害時の詳細な避難シミュレーションができる。ビル単体の情報を街区単位で集約すれば、観光案内やテナントリーシングなど、あらゆる場面を想定したデータ分析も可能になる。そこには同社が目指す“まちづくりBIM”を見据えたプラットフォームの在り方が垣間見える。
昨年の関東大震災から100年の節目には、社内に「メタ・アーカイブス研究会」を立ち上げ、自社で保管する丸ノ内ビルヂングの図面や写真を使い、当時から現在までの東京・丸の内をメタバース上に空間として再現し、オンラインゲーム「Fortnite(フォートナイト)」上に公開するなどの取り組みも進めてきた。
東京・常盤橋で2028年の全体開業に向けて工事が進む「Torch Tower(トーチタワー)」では、実世界と仮想世界を融合するXR(あらゆる仮想空間技術)にも取り組んだ。BIMデータでは容量が大きすぎるため、簡略したモデルを使ってXR化を実現。三菱地所など事業関係者にモデルを共有し、390mという日本一の高さを誇るトーチタワーが周辺環境とどう調和するかを確かめる一環だったが、同時に設計者の役割としてBIMデータをどこまで利活用すべきかを考えるきっかけにもなった。
同社はBIMソフト『Revit』のデータを、建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』に蓄積し、それをプロジェクト関係者間で共有する枠組みを構築しているが、「蓄積したデータを完成後のビル事業の視点でも利活用していきたい」との思いがある。
新規プロジェクトへのBIM導入割合は数年後に2、3割を目指している。川村浩執行役員DX推進部長は「BIMの実績を着実に積み上げていく中で、三菱地所グループの設計事務所として、独自のBIMプラットフォームを確立していくことが当社の使命」と強調する。
重要視するのは、維持管理段階のBIMであり、ビルオーナーや開発事業者としての目線だ。三菱地所が東京・大丸有地区で既存建物の建て替えによる連鎖形の再開発事業に取り組んでいるように、面的な視点から建設事業をとらえることが、他のエリアでも強く求められている。大丸有地区をモチーフに実証的に構築中のBIMプラットフォームのように「まちづくりの視点からBIMデータの利活用をとらえていきたい」と力を込める。
本来のBIMは建設生産の作業効率化や業務品質の向上を主眼に置くが、同社は将来的に蓄積したデータをビル事業予測にも活用しようと考え、まちづくりへの展開をBIM活用の到達点に位置付けている。設計対象である建築物の事業可能性をビル単体だけでなく、街区全体の視点から突き詰める“まちづくりBIM”の実現が、DX戦略の根幹になる。同社は次のステージに向けた力強い一歩を踏み出した。