東洋建設は、設計・施工の保管倉庫プロジェクトで、オートデスクが提供する建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』の施工管理ソリューション『Build』を、監理者検査に活用する。DX(デジタルエクスペリエンス)デザイングループ長の前田哲哉建築事業本部設計部部長は「Build活用の成果を踏まえ、社内への定着につなげたい」と強調する。Buildの先行事例を追った。
同プロジェクトは7階建て延べ4000㎡。温湿度管理を徹底する高度な倉庫タイプの施設となる。2023年11月に着工し、25年1月の引き渡しを予定している。DXデザイングループは現場開設と同時にACC上に現場の専用フォルダを構築し、協力会社だけでなく、発注者ともクラウド環境で情報を共有してきた。
既に設計部ではデザインレビューのワークフローを確立し、19年からACC上で密な情報共有を進めており、この流れを施工部門にも広げようと、同社は2年前から指摘事項にかかわる部分の業務フローを整え、ACCのフル活用に乗り出した。設計・施工の受注案件はACC上にプロジェクト単位でフォルダを作成し、そこに図面類を始め関連情報を個別に格納しており、プロジェクト関係者にアクセス権限を与え、クラウド環境でリアルタイムに情報共有を進めている。
ACCには発注者もアクセスしており、そこで図面共有も行っている。DXデザイングループの北祐一郎氏は「これまで現場では関係者とメールでやり取りしてきたが、現在はACC上で連絡する流れが定着しており、ACC上でリアルタイムに密な情報共有が実現している」と説明する。
新たなチャレンジとして検査への導入にも踏み込むことを決めた同社は、施工管理に強みを発揮するBuildを基盤に位置付け、今年から監理者検査の現場実証を進めてきた。DXデザイングループの仲村拓馬氏は「課題抽出を目的に従来の検査と並行して取り組んでいるが、現場担当からは枠組みが整えば業務効率や省力化を期待できるとの声を得ている」と説明する。
12月に検査を予定している保管倉庫プロジェクトは試行の3例目となり、Buildを本格活用するトライアル現場として位置付けている。現場を指揮する岡田文人作業所長は「検査で抽出した指摘事項をBuildに反映し、現場関係者間で共有することは可能だが、是正部分を協力会社に共有し、職人が手直しした結果をどう効率的にBuildに反映して集約するかがポイントになる」と考えている。作業工種は細かなものを含めれば50を超え、しかも工種当たり担当する職人は複数人に達する。その全員にACCのアクセス権限を付与することは難しい。是正部分を反映したシートを手渡しする方法や、タブレット端末を提供して是正部分を把握するような仕掛けも検討している。
今回は監理者検査を対象にしているが、その後には作業所検査、建築部検査、そして最後に竣工検査も控えている。検査へのBuild活用に前向きな大谷健司設計部部長は「社内でも検査の進め方は異なり、支店単位で書式も違う。そうした基準類の統一化も今後取り組んでいくべきテーマになる」と考えている。
先導役のDXデザイングループは実績づくりに向けて、全国の現場への呼び掛けを本格化している。既に3現場ほどが前向きに協力を承諾しており、検査業務の効率化に向けたBuild活用のトライアルが広がっていく見通しだ。現場規模によって導入効果に違いが出てくるだけに、これからは大型工事を中心に試行を拡大する方針だ。
ACCは国内の導入企業が300社を超え、これまではACCでワークフロー全体を管理する『Docs』の活用が進んできたが、ゼネコンでは施工段階の生産性向上をさらに推し進めようと、施工管理に強みを発揮するBuildの活用が進展しようとしているだけに、東洋建設が取り組む検査への導入は先導的な試みになる。前田氏は「この現場を出発点に、Buildを活用した検査全体の新たなスキームづくりを推し進めたい」と先を見据えている。