「シンプルで使いやすいこと」を追究した新たなコミュニケーションツールとして4COLORSが提供するアバター動画作成サービス『PIP-Maker』が、建設業から注目を集めている。人手不足の深刻化に伴い、少ない人数で従来どおりのパフォーマンスを発揮することが求められる中、日々行う新規入場者教育をDX(デジタルトランスフォーメーション)するツールとして普及してきた。表現豊かなアバターが資料の訴求力を高めるとともに、多言語翻訳機能などさまざまな機能を用いて建設業の生産性向上に貢献するPIP-Makerの最前線を紹介する。
◇アイダ設計販売促進部販売企画課課長 後藤正広氏/アイダ設計販売促進部販売企画課係長 宮路修氏/アイダ設計販売促進部販売企画課 五島育美さん/制作する楽しさが普及を後押し/他部署にもすぐに浸透/社員研修などに全面展開
アイダ設計は、アバター動画作成サービス『PIP-Maker』を本社の社員研修などに全面展開している。パワーポイントの資料からアバター・音声付き研修動画を簡単に作成し、受講者の習熟度向上や研修の効率化に効果を発揮している。PIP-Makerの導入を推進する販売促進部販売企画課の後藤正広課長、宮路修係長、五島育美さんにポイントを聞いた。
–導入の経緯は
宮路 当課は広報業務や研修資料の作成などを担当しています。これまではパワーポイントのスライドで資料を作成し、紙に出力して活用していました。ただ、紙は動画に比べて内容を把握しづらく、講師ごとに説明にばらつきがあり、習熟度に個人差が出やすいのが課題です。一方で動画は編集に時間や手間がかかるため、受講者の理解度を高める新たなツールを探していました。
後藤 2021年に取引先のLIXILからPIP-Makerを紹介され、すぐに興味を持ちました。実際にアバター付き動画を見せてもらうと、普段われわれが使用しているパワーポイントを使い、分かりやすい動画を簡単かつ短時間に作成できるため、これだと思い導入を決めました。
最初に活用したのは営業本部の新人研修で、当課が作成した60ページもの膨大な資料をアバター付き動画に変換しました。資料を小分けし、気になるところは繰り返し視聴して細かいニュアンスまで把握できるため、理解しやすいと好評でした。
宮路 紙の研修は「ラジオ」的でしたが、動画にすると視覚が加わり、「テレビ」的に活用できます。アバターがうなずいたり瞬きするなどリアルに動作するため、思わず引き込まれて集中して見てもらえます。
–どのように社内展開を進めたのでしょうか
五島 パワーポイントを編集できれば誰でも簡単に動画を作れるため、他部署に紹介すると、すぐに営業本部をはじめ、総務部、人事部などに浸透していきました。合成音声はイントネーションがとても自然で、男性と女性、大人と子ども、アニメ調などたくさん種類があります。研修内容に合わせてトーンを変えることができ、どうすれば伝わりやすいかを考えて制作するのが楽しいことも普及した要因だと思います。
後藤 当社は新しいツールを積極的に導入する半面、やめるのも早いのですが、PIP-Makerはさまざまな部署に使われています。
宮路 社内アンケートでは、「映像と音声で伝えるため記憶に残りやすい」「新人教育を効果的に行い、時間を有効活用できる」「十分な作り込みができる」といった声が寄せられました。
後藤 社内サイトにアクセスすればeラーニングのように活用できます。理解度を確認するテストの点数も上昇し、アバターを使うことで習熟度が高まったと思います。当社は社員数が多く、統一認識を持つのに役立つため、費用対効果は非常に大きいと思います。
–今後の目標は
宮路 実際に使用できる機会を設け、便利なツールであることを理解してもらい、より多くの部署に活用してほしいと考えています。
五島 最初にPIP-Makerを活用した社員として、新機能の使い方を研究するなど習熟度を高め、より伝わりやすい動画を増やしたいと思います。
後藤 今年は3次元空間でアバターが説明する機能を活用したいです。臨場感が増し、より楽しく講習を受けられると思います。建設現場のニーズも高まり、外国人向けの自動翻訳機能も効果的でしょう。いろいろな機能に挑戦し、他部署に広げたいと思います。
◇東急建設建築事業本部事業統括部建築企画部ICTグループリーダー 小松準二氏/アバター付き動画で理解度向上/短時間で質の高い研修を実現/外国人向け自動翻訳機能が効果
東急建設は、現場作業所の生産性を向上するため、日々実施する新規入場者教育にPIP-Makerのアバター付き動画を導入している。従来の紙の資料による説明に比べ、アバターがボディアクションしながら受講者に話し掛けることで“没入感”が生まれ、研修の自動化・平準化と習熟度の向上に効果を発揮している。PIP-Makerを社内展開する小松準二建築事業本部事業統括部建築企画部ICTグループリーダーにポイントを聞いた。
–導入の経緯は
従来はCD-ROMのソフトを活用して動画教材を作成していたのですが、編集の手間や音声のイントネーションなどに課題を感じていました。PIP-Makerは2年前に展示会で知り、みんなが使うパワーポイントをクラウドにドラッグ&ドロップするだけでAIアバターがアナウンサーのように流暢に話す動画を作成できるため、間違いなく新規入場者教育に使えると思い導入することにしました。
新規入場者教育ではこれまで、若手社員がA3の資料を配布し、職人の前で読み上げて教育をしていました。朝の忙しい時間に30分程度を掛けますが、社員の状態に左右されるクオリティーの平準化や、職人の拘束時間の長さといった課題の解決につながると思ったのです。
大切なことは、PIP-Makerを活用して説明を平準化するとともに、重要なところは現場社員が熱量ある言葉で直接伝えることです。職人が気になるところも社員が問いかけを織り交ぜながら回答します。そうすることで短時間で質の高い新規入場者教育につながりました。動画は45本程度作成しており、最近では外国人労働者の言語に自動翻訳した動画も作成しました。
–一般的な動画教材との違いは
まずもって注意すべきことは、説明を動画にすることで社員だけ楽になり、職人が分かりにくくなることです。アバター付き動画について職人に聞くと「すごく分かりやすい」と言っていただきます。気になるところを繰り替えし視聴できるのも動画ならではのメリットであり、時代のニーズに合っていると思います。
教育や研修は、飽きさせないことが重要なため、参加型研修やクイズの出題などを織り交ぜて作成します。PIP-Makerは2人まで同時にアバターを設定できるため、掛け合いしながら説明するなどして臨場感をさらに高めることも検討しています。
一方、現場の社員は忙しいため、動画の作成は、建築事業本部に所属する本社の社員が一人で担当しています。パワーポイントの資料は現場でつくるのですが、動画にするのは本社が担当します。
アバター付き動画を利用したことがある人は、研修資料としてインパクトがあり、説明が半自動化されるため、次の現場でも使用したいと考えます。そのため、新規の現場ができるたびに動画を作成している状況です。
–今後の展望は
作り手はアバターや動画を楽しみながら作成できるため、当社が目指す現場の「楽しさ」 「わくわく感」のコンセプトにマッチします。内容を変更する際、動画は編集が大変ですが、PIP-Makerは資料の一部を修正するだけのため簡単なこともポイントです。新規入場者教育がメーンですが、安全環境本部や営業推進部などにも広がってきました。土木事業本部のICTグループリーダーとも垣根を越えて情報共有しています。
ICTグループでは、さまざまなICTツールを説明する3分の動画を作成しています。ICT活用の入り口としてツールを知ってもらい、われわれの部署のHPに誘導して詳細な機能を知ってほしいと思います。ICTの利活用を推進する原動力としてPIP-Makerを活用したいと思います。
◇4COLORS 加山緑郎社長に聞く/パワポ資料から簡単に動画作成/導入実績は700社、15万本以上
パワーポイントで作成した資料に文章を入力するだけで動画を簡単に作成できるアバター動画作成サービス『PIP-Maker』が、建設現場の新規入場者教育で注目されている。最大のポイントは、現場のルールや安全のポイントを表現豊かなアバターが説明し、受講者の習熟度が高まる点だ。加山緑郎4COLORS社長は「新規入場者教育を日々行う中で説明のばらつきを防ぐ必要がある。PIP-Makerで作成した動画に置き換えると、人や時間のコストを削減するだけでなく、講師の説明が平準化される。受講者もうなずいたり瞬きしたりするアバターに引き込まれて真剣に見てもらいやすい」と効果を語る。
先駆的にPIP-Makerを導入した大林組では、新規入場者教育の実施回数や削減時間を算出した結果、年間1万6000時間以上を削減し、生産性向上に大きく貢献したという。外国人向けの自動翻訳機能の需要も高く、送り出し教育や安全週間などさまざまな場面の利用が考えられるため、加山社長は「建設業の皆さまとともに技術開発を進めたい」と力を込める。
アバターを活用した動画は、ホテルマンだった加山社長が目指した「ウェブ時代における人を介したコミュニケーションの強化」を形にしたものだ。起業した2000年代初頭は文字と画像が中心のウェブサイトの制作が主流で、『人』の要素が入る余地が少なかった。インターネットが普及して人が扱う情報量が爆発的に増える中、「膨大な情報を上手に伝えたい」との思いからアバターを利用したソリューションを構想し、パワーポイントの資料をアップロードするだけで簡単に素早く動画を作れるPIP-Makerを09年にリリースした。
最初に導入したのは、 大手保険会社だった。ITスキルに関係なく誰でも直感的に利用できるため、全社的な合併研修にもPIP-Makerを活用した結果、低コストで簡単に動画を作成できることから部署を越えて一気に広がり、最終的には500本以上の動画が作られ、約10万人に配信された。
それを契機に銀行や製造業に普及し、近年は働き方改革に向けてDX(デジタルトランスフォーメーション)が急速に進む建設業界に注目され、新規入場者教育を中心に活用が進む。習熟度もスライドと音声のみの動画と比べ、アバターがいた方が視聴しやすいと感じる人が78%になった研究機関の調査結果がある。
これまでに合計700社が導入し、15万本以上の動画が作成された。導入の敷居の低さに加え、受講者に合わせてアバターを変えたり、担当者の顔写真を利用したMyアバターの作成や自社のオリジナルユニホームを着用させるオプションサービスなど、動画を制作する“楽しさ”もユーザーが増えた大きな要素だ。合成音声も男性や女性、大人や子どもなどさまざまな種類があり、なめらかに発声できる点も評価が高い。
現在はAIエージェントを基盤にした第2のソリューション開発を進めている。「AIエージェントが急速に進化する中、人の価値を再定義する必要がある。エモーショナルな部分を残しつつ、高度な問題解決をROI起点でスピーディーに実現することでビジネスの結果を出し、組織全体の成長を支援するサービスを目指したい」と見据える。