竹中工務店の建築VIZ(ビジュアライゼーション)業務は多岐にわたる。受注貢献や合意形成に向けた建築CGパースづくりにとどまらず、パノラマ画像やウオークスルー、さらには社外と連携してプロモーション映像を手掛けるケースも少なくない。デジタル技術の進展に伴い、東京本店、大阪本店、名古屋支店に置くビジュアライゼーショングループの業務領域は多角的に広がりを見せている。
ある個人邸のプロジェクトでは360度のパノラマVR(仮想現実)を作成し、顧客と細かな仕様決めを進めるなど、デジタルコンテンツを合意形成にフル活用した。オートデスクの3次元グラフィックスソフト『3ds Max』で仕上げた建物モデルを、パノラマレンダリングした画像をブラウザから手軽にアクセスできる仕組みにより、自由な視点の切り替えによって細かく確認できる。
東京本店設計部技術・BIM部門の吉本和功ビジュアライゼーショングループ長は「360度パノラマ画像を活用すれば、納まりや空間の見え方など細かな部分までiPhoneなどからも手軽に確認できるため、合意形成の手戻りも大幅に減らせる。大型の民間プロジェクトでも、有効な合意形成手段として活用機会が増えている」と説明する。
以前から、コンペ提案では建築プロジェクトのイメージ動画を作成するケースが頻繁にある。現在はプレゼンテーションのプログラムとして3分ほどの動画コンテンツを組み込むことが主流となっている。受注後も、ものづくりの様子を記録したドキュメンタリーや、竣工後のプロモーション映像を作成するケースが増えており、近年のVIZ業務ではデジタルコンテンツを駆使した多様な表現力が問われている。
コンペ提案時に作成した建築モデルを次のフェーズにつなげる新たな流れも出てきた。創立60周年を迎える神戸学院大学では記念事業として2026年4月の完成に向けて「有瀬キャンパス1号館」の建設が進んでいる。設計施工を担当する同社では大阪本店ビジュアライゼーショングループの山口大地主任が同館のティザーサイト立ち上げに協力し、ウェブデザインや中身のコンテンツについても手掛けており、BIMモデルを3ds Maxに取り込み、新しい学舎の魅力を伝える動画コンテンツを作成した。
大阪本店設計部の本間隆司スペースデザイン部長は「作業所と連携して現場の仮囲いもデザインし、そこからウェブコンテンツにアクセスする遊び心を持った仕掛けも盛り込んだ。建築モデルを生かしてエンドユーザーまで届くプロモーションの取り組みを、VIZ業務の新たなラインアップとして展開していきたい」と強調する。
業務範囲は広がりを見せ、最近は映像コンテンツ関連の業務が拡大し、表現手法も多様化している。「VIZ担当がお客さまと直接打ち合わせする流れが顕著になり、そうしたプロモーション関連業務には報酬もしっかりと支払われ、付加価値の高い業務として位置付けられている」と付け加える。VIZ担当の役割は大きく変わり始め、新たな職能としても確立しつつある。
社内では、設計案件の全てでBIMモデルを作成し、施工や維持管理段階への活用が動き出している。BIMデータをVIZ業務にも取り込めれば、より迅速で一貫した流れが実現できる。本多英行設計本部BIM推進グループ長は「現在はBIMとVIZの業務がそれぞれで進むダブルワークの状態になっている。これを解消できれば生産性や品質面でも大きな効果が出てくる」と先を見据えている。