【BIM2025⑩】高砂熱学工業×オートデスク×応用技術 | 建設通信新聞Digital

7月3日 木曜日

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【BIM2025⑩】高砂熱学工業×オートデスク×応用技術

高砂熱学工業が施工現場へのBIM拡大に向け、本格的に取り組んでいる。2021年に策定したDX戦略の柱としてBIM導入を位置付け、翌22年にBIMソフト「Revit」を提供するオートデスクとMOU(戦略的提携)1.0、24年にはRevitデータを各生産プロセスで共有するための新たなMOU2.0も結んだ。どのようなスキームで施工現場への定着を図るか。高砂熱学工業の橋本晋執行役員技術本部副本部長、オートデスクの鈴木美秀執行役員建築・土木営業本部本部長と羽山拓也技術営業本部本部長、応用技術の小西貴裕代表取締役専務DX事業統括責任者の4氏に聞いた。

左から羽山氏、小西氏、橋本氏、鈴木氏

施工全面展開へ成功例共有/横断的な現場支援体制も確立

――現在の状況は

橋本 高砂熱学工業では20年から本格的にBIMに取り組み始め、Revit活用のトライアルプロジェクトを拡大してきた。3年前から比べると、導入プロジェクト数は約4倍に拡大しているが、全国の対象工事件数から見ればまだ限られた現場にとどまっている。
 ただ、「BIMに取り組もう」という現場の前向きな意識は広がっており、成功例を積み上げ、導入効果を社内に水平展開することが重要と考えている。労働人口が減少する中で、設備工事業は人に頼っている部分が大きい。生産性向上はもちろん、省人化は避けて通れない。デジタル戦略の一環としてBIMについてもロードマップを策定し、全面導入に向けて動き出している。
 25年度からは技術本部の中に「システム技術統括部」を新設した。これまでDX推進本部の中で活動していたBIM推進室をシステム技術統括部に位置づけ、より支店側に近い存在とし、現場とより密接な連携がとりやすいように組み替え、BIM拡大に向けてギアを1つ上げた。現場展開を本格化するフェイズに入った。

小西 応用技術はオートデスクのリセラーパートナーとして製品の販売サポートを担っている。近年はBIMを現場に根付かせるための技術支援ニーズが拡大しており、そのためのシステム開発や業務支援などの環境整備を数多く手がけている。オートデスクと高砂熱学工業がMOU1.0を締結するタイミングで、当社を技術支援パートナーとして選定してもらい、22年から高砂熱学工業のBIM技術基盤の強化を下支えし、ファミリ整備やテンプレート構築、業務自動化のためのアドオン開発などの技術支援に取り組んでいる。

鈴木 オートデスクではゼネコンや建築設備会社、設計事務所など国内主要企業とBIM導入に向けたMOUを結んでいる。提携先のニーズに応じて支援の中身もレベルも変わってくる。応用技術のようなBIM導入支援パートナーと連携してMOUに取り組むケースは近年増えている。高砂熱学工業はRevitデータの標準化に加え、クラウドプラットフォーム「Autodesk Construction Cloud(ACC)」を基盤に各生産プロセスにおけるデータの利活用を目指しており、その技術的支援には豊富な実績をもつ応用技術が適任と考えている。

羽山 最終的にどこを目指すか、その道筋を明確に設定することが何よりも重要になる。企業によってデータ活用のポイントが異なるだけに、それを具現化する最適な技術支援パートナーを選定し、協力体制を構築することが、プロジェクトを成功させるポイントの1つになる。そのため、高砂熱学工業が進むべき方向性を踏まえて、それを下支えする応用技術の役割やオートデスクが提供するテクノロジーを3社で協議しながら決めていった。

橋本 Revitを軸にACCプラットフォーム基盤を確立することで様々なデータの利活用を実現できる。われわれのアイデアをシステム化するためには、応用技術のような技術支援役が不可欠であると考えている。これから現場へのBIM導入を推し進める上でも大きな力になってくれるだろう。

小西 高砂熱学工業の技術支援は、テンプレート、ファミリ、アドオンなどの共通利用資材と、マニュアル、利用者からの問い合わせに対応するサポートデスクなど運用に関わる内容について、分科会を組織し実施している。技術支援は4年目に入り、われわれの役割はシステム構築や環境整備の部分から、現場サポートを本格化するフェイズに入る。そのための体制拡充に向けた準備も進めている。

高砂熱学工業とオートデスクのMOUを応用技術が技術支援


――現場展開の手応えは

橋本 これまではBIMを活用したいという自発的な現場を中心に導入を進めてきた。その方向性は変わらないが、今後は本社が一緒になって導入現場での目標や目的を定め、そのための具体的な筋道も位置付けていく。成功例を着実に積み上げ、それを水平展開することが全社展開の近道だと考えている。
 プロジェクト特性に応じて、設計から施工まで一貫してBIMに取り組むような流れを作っていきたい。まずは元請の現場を中心に導入率を引き上げていく。ただし、各支店のリソースは限られていることもあり、4月からBIM推進室の中に新設した「BIM支援センター」が、各支店の要望に応じて全国の現場を横断的に支援する流れに切り替えた。
 BIM支援センターは7人体制だが、その下に国内外計11拠点のBIM担当がぶらさがる組織となる。1拠点当たり2、3人のBIM担当を位置付けており、全国で30人ほどに達する。BIM担当は支店をまたいで、他支店のプロジェクトにも携わり、それをBIM支援センターがコントロールする。いわばセンター所属の7人は当社にとってのBIMマネージャー的な役割でもある。
 現在、BIM支援センターが管轄するプロジェクトでは、Revit導入の効果についてBIM連携ツールも活用しながら検証し、それを社内に水平展開する中で、プロジェクトの特性を見据えながら、設計から施工、運用・維持管理までの一貫したBIMデータ活用も進めていく。

小西 応用技術はBIM導入現場を全面的にサポートする役割として、高砂熱学工業の現場展開に合わせ、当社親会社のトランスコスモスと連携し、支援体制を拡充する。全国の現場にBIMのサポート人材が出向いていけるような枠組みを早急に確立する予定だ。

鈴木 オートデスクは高砂熱学工業のRevit標準化を「伴走」していく。これまで“点”で支えてきた流れをBIM導入の拡大に合わせて業界に横串を通した“線”へ、さらにはエコシステム全体を考えた“面”的に広げる。協力会社へのBIM導入支援における連携も始めた。

羽山 Revitに可能性を感じ、導入を進めている高砂熱学工業の期待に応えるためにも、技術支援パートナーの応用技術と連携して高砂熱学工業を次のステージに引き上げることがオートデスクの責務であり、それが当社として常に心がけている「伴走」の意味でもある。

――次のステージは

橋本 設計や施工への展開だけでなく、運用・維持管理までデータを活用することでBIMの価値は広がる。建物ライフサイクルの視点からデータ活用を考えることは、新たな事業価値の創出にもつながる。Revitを選択した価値を、事業全体を通じて見いだしていく。

小西 これまではRevitを標準ツールとして使えるようにするための環境整備を担ってきた。これからは高砂熱学工業が現場展開のステージになり、現場からさまざまな要望や相談が出てくる。そこで得た知見やノウハウを生かしながら、設備工事業のBIM標準化にも貢献していきたい。

Revit活用現場を拡大


羽山 各企業とRevitデータ活用に向けて連携する中で、高砂熱学工業など設備工事会社9社が加盟する設備BIM研究連絡会のように、企業の枠を越え、BIM標準化に向けた共通課題の解決に取り組む重要度は増している。この協調領域の流れを軌道に乗せることはオートデスクの役割に他ならない。

鈴木 各企業を通し、その分野のBIM導入を後押ししていくために、グローバルな視点から、有益な情報を提供することも役割になる。高砂熱学工業はもちろん、設備工事会社のBIM導入を後押しする架け橋として取り組んでいきたい。

橋本 私は8年間、支店長としてプロフィットの最前線を指揮してきた。BIM定着に向けて、押しつけるのではなく、現場の意見を聞き、モチベーションを高めながら展開していく。現場目線を大切にして、一体感をもってともにBIMの定着を図っていきたい。



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