導入拡大に向けた環境整備加速/国土交通省住宅局長 楠田幹人氏に聞く
――取り組みの背景は
日本の人口は、2025年と比較して50年に、総人口が約15%、生産年齢人口が約24%の減少が見込まれています。設計・建設業界では、建築士や建設技能労働者の高齢化が進行し、今後の担い手不足が課題となっています。適切な設計・建設がされ、質の高い建築物の供給を維持するためには、人材の確保はもとより、一層の業務効率化が喫緊の課題であり、建築・都市・不動産分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が有効だと考えています。
建築・都市・不動産分野のDXは、建築生産や都市開発、不動産各業務の「生産性」と屋内空間や屋外空間、不動産の「質」の向上に寄与し、建築・都市・不動産分野の経済性と社会性の最適化をもたらします。このため、関係部局が連携しBIM、PLATEAU、不動産ID、地理空間情報といったDX施策を一体的に推進しているところです。
さらに、建築・都市・不動産分野のDXの効果を他業界に波及させるため、同分野と交通・物流・観光・福祉・エネルギーなどの他分野の情報が、蓄積・連携・活用できる社会を構築し、新たな付加価値が生まれるような将来像を描きながら、施策を展開することが重要と考えています。
――BIM普及策は
設計業界から、BIMによる建築確認の環境整備が強く求められています。大半の新築建築物が経ることとなる建築確認手続きでのBIMモデル活用がBIMの一層の普及につながると考えられるため、26年春にBIM図面審査を始め、29年春にはBIMデータ審査の開始を目標として、官民連携で準備しています。
また、BIM導入の初期のハードルとして、BIMソフトウェアの導入費用の捻出や、BIMを活用できる人材の不足が挙げられています。このため、24年度補正予算と25年度当初予算で、BIMの普及拡大による生産性向上の推進(DX)と建築物のライフサイクルアセスメント(LCA)の実施によるLCCO2削減(GX)の推進を一体的・総合的に支援し、取り組みを加速させるため「建築GX・DX推進事業」を創設しました。従来の「建築BIM加速化事業」ではBIMソフトウェアの導入費や人件費を補助できましたが、今般の「建築GX・DX推進事業」ではBIMを活用したLCAの実施も補助対象としています。
建築データの活用を進めるため「BIMを通じた建築データの活用に関するガイドライン Ver.1 -不動産オーナー・AM・PMに向けて-」を作成しました。建築データが蓄積・連携・活用できる社会の実現に向け、ガイドラインの第一弾として不動産オーナーらを対象に建物の情報を蓄積したBIMデータを活用する社会的意義・メリット・ユースケースなどをまとめたところです。
――今後の展望は
近年、企業規模を問わず、BIM導入が進んでいます。今後はBIMで建築確認が可能となり、BIM活用がさらに進むことや、建築物のライフサイクルカーボンを効率的に算定できるBIMの必要性が高まることが想定されます。また、AIやセンシング技術、映像解析技術などの先進技術の進展が著しく、建築を取り巻く環境も大きく変化しているところです。
BIMと先進技術を組み合わせて活用できれば、さらなる業務の効率化や質の向上の可能性が高まると考えます。社会の動向を注視し、今の時代に合った建築分野の社会システムを構築できるよう、官民連携で議論を進めていきたいと考えています。
シンガポールのBIM建築確認システム『CORENET-X』/段階的に義務化の対象拡大/建築確認用デジタル辞書を公開/教育プログラムも共に整備
シンガポールは、BIM建築確認システム『CORENET-X(コアネット・エックス)』を2024年に試行した。25年10月1日から3万㎡以上の新規プロジェクトにIFCデータの提出を義務づける。26年10月に全ての新規プロジェクト、27年10月には進行中の全プロジェクトに対象を拡大する。ビルディング・スマート・インターナショナル(bSI)が今年3月にシンガポールで開いたサミットで概要を報告した。
BIMの技術要件の策定では、政府機関、建設業界、BIMベンダー、ビルディング・スマートの4グループが参画した。政府も建築確認の変革に合わせ住宅、都市、消防、設備、運輸土木など7局が協業した。意匠、構造、設備の各図面が整合するよう調整したIFCモデルをCORENET-Xに申請し、関係機関が審査する。IFCを利用した自動審査も試行する。
CORENET-Xを正しく運用するため、国際標準に準拠したBIM建築確認用のデジタル辞書を2月に公開した。ドアや部屋などオブジェクトの名称や種別、命名規則などの情報要件「IFC+SG」を定め、モデル作成時に参照してもらい精度向上につなげる。
BIM教育プログラム「建設デジタル人材認証(DDM)」も整備し、アシスタントスペシャリスト、スペシャリスト、リード、チーフ・デジタル・オフィサーの4階層にそれぞれスキルセットを整備した。日本の登録者も増えているbSIの「BIMプロフェッショナル認証」との互換性があり、DDMの評価項目の一部に該当する。
ビルディング・スマート・ジャパン(bSJ)の足達嘉信国際委員会委員長は「シンガポールはCORENET-Xの構築に並行してデジタル辞書やDDM認証を整備し建設業界が対応できるよう全体像を設計したのが特徴だ。日本の建築確認のBIM化の参考になる」と分析する。
寄稿・国土交通省官庁営繕部整備課施設評価・デジタル高度化推進室
官庁営繕事業におけるBIM活用の取り組み
全ての新営設計と工事にEIR適用/3000㎡以上は指定項目と推奨項目を設定
国土交通省官庁営繕部では、建築BIM推進会議における検討を踏まえ、設計業務と工事の品質確保、事業円滑化と生産性向上を図ることを目的に、官庁営繕事業におけるBIM活用の取り組みを進めています。
官庁営繕事業では、2023年度より、原則として全ての新営設計業務と新営工事にEIRを適用しています。EIR(Employer’s Information Requirements)とは、発注者が示すBIM活用に関する要件です。EIRにおいて、新営設計業務と新営工事におけるBIM活用項目を設定しています。EIRで設定するBIM活用の項目を表に示します。
延べ面積3000㎡以上の施設の新営設計業務の場合は、BIM活用を指定する項目(以下は指定項目)と推奨する項目(以下は推奨項目)を設定しています。なお、推奨項目におけるBIM活用については受注者の判断により実施するものになります。
官庁営繕事業の設計業務に関し、EIRにおいてBIM活用を指定する指定項目への対応を基本として、BIMデータの入力情報と設定内容の目安を示すために「営繕BIMモデル」を作成し、そのデータを24年10月23日に国土交通省のホームページで公開しました。
営繕BIMモデルは、ある架空の建築物(RC造地上5階建て延べ面積約3300㎡の一般的な合同庁舎)を対象に、官庁営繕事業の設計業務において指定項目と推奨項目(一部)に対応したBIMデータの例を作成したものです。営繕BIMモデルでは、図1に示すとおり、総合、構造、設備の各分野のBIMデータを作成しています。
営繕BIMモデルで使用したBIMソフトウェアは、建築BIM推進会議の各部会における検討が先行しているオートデスク『Revit』であり、公開したBIMデータはRevitのオリジナルファイルとなります。あわせて、BIM活用の内容、入力した情報、設定内容等に関する解説資料を公開しています。
営繕BIMモデルは、指定項目(図2)と推奨項目(一部)の実施に必要となる範囲について作成しています。推奨項目については、発注者がBIM活用を指定するものではなく受注者の判断により実施するものですが、営繕BIMモデルでは指定項目とともに実施例を示すことが有効であると考えられる一部項目について、参考として実施しています。
営繕BIMモデルを作成した際のBIMデータの作業環境等の設定内容をテンプレートとして保存した「営繕BIMテンプレート」も公開しています。新規に個別の設計業務に着手する際に、BIMソフトウェアにおいて営繕BIMテンプレートを作業環境ファイルとして読み込むことで、営繕BIMモデルと同じ設定内容によりBIMデータの作成を開始できます。
なお、営繕BIMモデルの対象施設は架空のものであり、設計内容は建築基準法等に基づく審査を受けたものではないことや、入力情報等には推奨項目(一部)に対応するものが含まれているため、指定項目のみを実施する場合には、指定項目の実施に必要な範囲の情報の入力等を行えばよいこと等にご留意ください。
営繕BIMモデルが官庁営繕事業におけるBIM活用の理解促進と効率的な実施に寄与するとともに、建築BIM推進の一助になればと考えています。営繕部では、業界団体の皆さまとも連携し、引き続きBIM活用を推進することで、設計業務と工事の品質確保等を図ってまいります。