【column BIM IDEATHON(3)】非競争領域 -建設業界において- | 建設通信新聞Digital

4月30日 火曜日

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【column BIM IDEATHON(3)】非競争領域 -建設業界において-

 本論へ入る前に、本稿で扱う建築生産プロセスについて整理する。建物用途や規模、特性により実際の様態は異なるが、おおむね次のように理解することができる。

◆建築生産プロセス-設計情報の「伝達」
 建築生産プロセスとは、建築主の構想を起点とし、設計、製造および施工を経て、維持運用へと至る、高度な専門業務の連係であり、建築主の構想に基づく設計情報を、各専門業務間で伝達することを通じて現実の建物として作り上げる手順である。
 また、書籍『建築ものづくり論』(有斐閣・2015年出版)において、「つくり手の意図である『設計情報』を『もの(媒体)』に転写し、あるいはつくり込み、顧客に伝達する行為の総体」と定義される「広義のものづくり」の、建設産業における実相と捉えることもできる。
 本稿では、建設業界における「非競争領域」を考察するが、建築生産プロセスにおいて基盤をなす所作=「伝達」に着目する。他方、建築主の構想を設計情報に変換する所作=「設計」および設計情報をものへ転写する所作=「製作、施工」も建築生産プロセスの上で重要な位置を占めるが、紙幅に限りがあるため、これらの考察は別の機会に譲りたい。

◆「伝達」における言語の問題
 設計情報は、対象とする建物の用途や規模、特性等に依り、含まれる項目や範囲、内容(以下、中身)が異なる。一方で、設計情報の記述方法(言語=語彙×文法)が異なる場合もある。この場合、情報を受信する側は、同じ項目を理解するために、発信側の記述方法によって、解読方法を変えねばならない。これは、非効率であり、受信側に大きな負担を強いている。この背景には、発信側がそれぞれ独自の記述方法を(無自覚に)採っている状況がある。具体例を挙げる。昇降機設備において製造メーカーは数社であるが、設計情報を記述し伝達する側(設計事務所や建設会社)は、はるかに多い。伝達する側がそれぞれ独自の記述方法を採れば、メーカー側は、その都度、例えば、かご内法寸法などを質疑を上げ、確認を取りながら読み取らざるを得ず時間がかかる。実際、他の専門工事会社、メーカーにおいても、こうした不合理は日常茶飯事である。
 設計情報の中身は、建築の「あり様」を決定づけるため、その構築に際しては専門技術者が渾身の知恵を絞る。本稿の主題に照らせば「競争領域」そのものである。この観点では、中身に独創性を込めることに必然性がある。しかし、中身を記述する方法に、独創性は必要だろうか。他社と異なることが、競争優位を生み出すのか。筆者の考えでは、記述方法は「非競争領域」に含まれ、記述方法(言語)を共通化しても、情報の中身(文学的になるが「物語」と換言してもよい)の独創性は損なわれない。

◆共通の言語を用いる
 筆者は、設計情報の記述および伝達に有用な技術として、BIMを捉えている。
 最近、各企業のBIMに携わる技術者の間で、BIM部品の仕様や、技術者間で授受するデータ形式を業界内で共通化・標準化する、つまり「言語」を統一する必要性が議論され始めている。共通化・標準化によって、建築生産プロセスの上流と下流を担う専門技術者が、同じ言語を用いて設計情報を扱い、情報の中身を正確かつ迅速に伝達出来るようになる。すると、プロセス全体の流れが円滑化し、結果として生産性が高まる方向へ進んでいくだろう。
 BIM IDEATHONの「建設業界における非競争領域」をテーマとするワークで、この点に着目したグループがあった。彼らは、企業を超えた同年代との対話の中に、その種を見出したのではないか。
 筆者は考える。設計情報の記述方法、つまり建築を表現する言語の標準化が、建設業界の「競争領域」を支える「非競争領域」確立への一歩であることを、各企業、各分野の技術者が共有し、知恵を出し合って標準化の実現を目指すべきである、と。
 次回は、BIMを用いた設計情報の記述について、深耕したい。(大林組/中嶋潤)

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