日本建設業連合会の「建設業ハンドブック2018」によれば、建設業の労働生産性は2008年を底に近年わずかながら上昇傾向にあるとされている。
一方で、90年代後半から製造業など他の産業の生産性が上昇傾向にあるのとは対照的に、建設業の生産性は大幅に低下したとの記述もされている。
◆労働生産性とIPD
この背景には、建設資材の高騰に起因する建設コストの上昇や、熟練技術者の減少による労働力の投入、紙図面による情報伝達によりデジタル化が進んでこなかったなど、さまざまな要因がある。これが建設業の労働生産性を低下させているとも言え、課題でもある。
これは国内だけではなく米国でも同じことが言え、建設業の労働生産性は国内外問わず総じて低下している。
こうした中、米国では建設コストを下げ、その結果生産性を向上させるためには、フロントローディングと呼ばれる、変更容易性のある設計早期の段階で、「もの決め」をする手法が注目されることとなった。
フロントローディングを実現するためには、早期に施工者を選定し、施工性などの検討を行う必要がある。
しかしながら、従来の一般的な契約方式である、設計・入札・施工といった分離型の契約では、施工者が早期にプロジェクトに参画することは難しく、フロントローディングの実現は難しい。
このため、米国ではIPD(Integrated Project Delivery)など、統合的にプロジェクトを推進しようとする発注者主導の契約方式(CM@リスク方式やデザインビルド方式を含む)を締結することで、フロントローディングの実施をここ10年余りの間で試みた。
◆プロセスイノベーション
現在の建設業界は分業化が進み、さまざまな分野の担当者がプロジェクトにかかわる。フロントローディングによるプロセスイノベーションを実現するためには、担当者間の情報の受け渡しがかぎになる。
これまでは、特定の期日を設定し、それに合わせてお互いにバトンリレー方式で情報を交換していたと言える。
これを改善するために、コンカレントエンジニアリングと呼ばれる、担当者がほしい情報をほしい時点で取得できるような、情報連携が提唱されている。
米国でフロントローディングや、それを実現するコンカレントエンジニアリングによる生産性向上の機運が高まる中登場したのが、BIMである。
◆プロセスのグローバル化
BIMツールは、統合的に建物情報を管理するツールとして存在するソフトウェアや、クラウドサービスを包含し、国内外合わせて複数存在、その多くが世界各国で利用されている。
海外製のBIMツールをそのまま国内で利用することは、日本の建設実務に即した機能が不足しており難しく、数年前まで国内のBIM環境は決して整備されている状況とは言えなかった。これを、アドオン開発などで補うことにより、現在では国内の利用環境もかなり整ってきたと言える。
また、GrasshopperやDynamoに代表されるように、ビジュアルプログラミング言語ソフトウェアを用いてデザインに利用するなど、これまでにないツールの利用環境も現在構築されている。
既に海外でオープンプラットフォームとなったBIMを活用するためには、BIMに合わせた体系的なコード化なども必要になる。国内向けに解釈し活用することが、生産性向上のきっかけにもなる。
BIMが概念的にもソフトウェア的にも確立され、受け渡しルールなどを整備することで、コンカレントな連携による効率化が可能となり、建物情報があらゆる関係者間で共有可能になる。こうした環境の実現が、建設産業に必要と筆者らは考えている。
(大成建設/大越潤)