【地域建設業こそ本来の姿】建築家で東大名誉教授の内藤廣氏が新群馬建設会館式典で講演 | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【地域建設業こそ本来の姿】建築家で東大名誉教授の内藤廣氏が新群馬建設会館式典で講演

 建築家で東大名誉教授の内藤廣氏は、群馬県建設業協会(青柳剛会長)が前橋市で開いた新群馬建設会館ファーストイベントに出演し、『建築家から見た建設業の問題』をテーマに講演した。
 災害頻度が世界有数の国土を適切にメンテナンスしていくためには「(地域に根差した)常備兵力が必要。利益誘導はよくないが、その人たちの暮らしが成り立ち続けるようにしなければ」と訴えた。
 社会資本整備においても戦後から続く、効率性や合理性を追い求める思想を問題視し、「このままでは社会資本として蓄積していけない。本当に良いまちづくりや国土強靱化に取り組むならば、発注や設計、ものづくりの仕組みも含めて変えていく必要がある」と主張した。
 地域建設業については「特に山間地では、まず防災だと思っている。地元の人に理解され、いざという時に頼りにされる存在になることが第一。社会奉仕という土台の上で仕事をする。そうすると、若者も誇りを持てるようになる」と持論を展開。現場の権限が薄れ、商社化する都会の大企業の方が「若い人がかわいそう」とし、「顔の見える地方こそが本当の建設業だと思って、楽しく仕事をしてほしい」と呼び掛けた。
 講演の中では、福井県年縞博物館(若狭町)の建設事業での体験談を披露。木造、鉄骨、現場打ちRC、PCという精度管理の異なるものを組み合わせる建築物で、「普通は大手・準大手ゼネコンに頼む」難易度の高さというが、施工は地元の前田産業・ともえ屋JVが担当した。
 「はじめは本当にできるのかと思った」と振り返りつつ、結果として「大手よりもはるかに良い、最高の仕事をしてくれた。感動的だった」と称賛。特に、割った竹を使う昔ながらの方法で打設したピロティのコンクリートは「クラック1本、気泡1つない完璧な仕上がりで、戦後の建築で一番きれい」と語り、地元の人間同士だからこそとチームワークをたたえた。
 ここでの経験から、地元の会社が地元の労働力を使って、ものをつくり、メンテナンスをするのが「本来の建設業の姿ではないかと思った」という。この点を地域建設業が主張していくためにも、「勉強して技術力を養わなければならない」と説いた。
 また、デジタル化の弊害にも触れ「手描きの時代は図面を見れば、その人の力量を測れたが、デジタルに置き換わり、まったく分からなくなった。戻せとは言わない。わたし自身もいまだに宿題として残っているが、見直すべきところはある。建設業界も設計界も最終的にはヒューマンコンタクト。これが欠落すると、さまざまな問題が出てくる」と指摘した。

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