【気付を政策に生かす】都内初「SIM」ワークショップ 一般市民が行政幹部演じ、市の将来像を描く | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【気付を政策に生かす】都内初「SIM」ワークショップ 一般市民が行政幹部演じ、市の将来像を描く

 まちづくりは自分事--。次期長期総合計画の策定に取り組んでいる東京都小平市で、ユニークなワークショップが行われた。採用したのは「SIMこだいら2030」と呼ばれるシミュレーションゲーム(SIM)。一般市民が架空のまちの行政幹部となり、人口減や社会保障費増などのシナリオに沿って、限られた財源と時間の中で事業を取捨選択し、市の将来像を描く。気付きや判断を実際の政策に生かす狙いで、市民参加型SIMを総合計画策定に活用するのは都内初となる。

各部長は自らが取り組んでいる事業の継続に必死だ

 SIMとは、ゲーム形式の対話型自治体経営シミュレーション。熊本県の職員が発案したものを小平・小金井両市職員有志が合同で“ご当地版”として改良した。
 とある仮想自治体「けいみらい市(K未来市)」を舞台に2030年までに起こる課題に対応するため、5人1組のチームが対話に基づき事業の継続・廃止を選択する。
 やりたい事業の提案になりがちだった従来形式に対し、SIMは、何かを始めるためには何かをやめなければならず、工夫が必要なことが特徴だ。
 プレーヤーは、住民基本台帳から無作為抽出法で募り、企画総務、地域振興、子ども教育、健康福祉、都市環境のいずれかの部長に就任する。各部長は推進する事業カードを複数枚保有しており、必要な財源を捻出するには、手持ちの事業を廃止するか赤字地方債の発行に迫られる。ワークシートに事業カードを貼り付け、実施か廃止の理由を記載してゲームを進める。

大判のワークシートはけいみらい市の未来図になった

 5月25日のSIMには、小林正則市長も激励に駆けつけた。けいみらい市の幹部を前に「近い将来やってくる人口減少や高齢化という時代は、経験したことがない変化だ。しかし、マイナスイメージにとらえるのでなく、担い手や支え手となってまちづくりの課題解決に取り組む好機でもある。次期長期総合計画策定に向けて実りあるワークショップにしよう」と激励した。

小林市長

 SIM当日、プレーヤーは3ラウンドを体験した。26-30年を想定したラウンドは、増え続ける社会保障費への対応と、インフラ施設更新は「必ず実施」する事業。この条件のもと、部長5人は、近隣市共同のAI(人工知能)導入と、市民ホールリニューアルの「決断」に迫られる。1事業1億円が前提条件だ。2事業とも実施する場合は計2億円必要となり、5人の部長が推進する事業のうち2事業を廃止しなければならない。その決定に対話が重要になってくる。
 各ラウンド終了後に模擬議会を開き、他グループの質疑を経て、事業施策に対する採決を執った。最後にけいみらい市の方向性やキャッチコピーをグループごとにまとめ、全員の投票によって理想のまちを決めた。
 ワークショップのまとめで横山雅敏企画政策部政策課総合計画担当係長は、「合意形成を左右する対話がうまくいくかは(自分の施策カードを見せることで)情報を共有し、立場を超えた未来ビジョンの共有が重要」と述べた。
 津嶋陽彦企画政策部長は、「『足らん足らんは工夫が足らん』という言葉があるが、工夫するにはいろいろな部署の仕事を知り、幅広い情報収集と共有が大事だ。アイデアを出し合ってより良い未来を築こう」と締めくくった。
 自治体の多くが“あれもこれも”から“あれかこれか”を選択する時代に入っていく。市民一人ひとりの高い意識が、公共施設再編などの課題対応も見据えた市の将来像を描くヒントにつながる。

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