【建設ICT 新時代へ】堺市 国内初のシステム開発 図面・積算を自動チェック 予定価格算出が迅速に | 建設通信新聞Digital

4月28日 日曜日

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【建設ICT 新時代へ】堺市 国内初のシステム開発 図面・積算を自動チェック 予定価格算出が迅速に

 堺市が、設計者から提出される設計図書や積算内訳のチェックを自動化するシステム開発に乗り出している。実現すれば国内初の試み。システム構築を担うのは計算知能工学分野でAI(人工知能)の応用研究を専門とする大阪府立大学人間社会システム科学研究科の中島智晴教授。2020年度中にも試作のシステムが稼働する見通しだ。

中島教授(右)と助手の加藤さん

 堺市に限らず、公共発注では設計者からの図面や単価内訳書をベースに予定価格を導く。ただ、図面の表現や提出単価にばらつきがあるため、過去の事例に基づき部材や数量などを一つひとつ確認しながら妥当性を確認するため、発注者はその作業に時間をとられてしまうケースが多々ある。迅速な予定価格の算出を実現したいと、支援システムの開発を決めた。
 堺市の場合、建築コスト管理システム研究所の営繕積算システム『RIBC2』を導入しており、これを使って設計者は部材数量などの内訳詳細を入力している。「発注者の整合性確認がしやすくなるように、まずは過去のデータを蓄積し、市の担当者が検索できるような仕掛けを確立しようと考えており、そのためRIBC2データを別形式にして取り込み、独自のデータベースとして整備することを進めている」と中島教授は説明する。
 2019年4月にスタートしたシステム開発は、1年かけて枠組みを固めた。現在は過去5年分の積算実績をデータベース(DB)化している。システム開発で助手を務める同大4年の加藤正元さんは「このDBが整えば、市の担当者が積算の妥当性を導く根拠になってくる。ゆくゆくはデータの蓄積が自動化への足がかりになる」と強調する。

開発中の積算内訳システム

 設計図面の整合性確認についても、図面データを読み込み、自動で認識する仕組みの開発に着手した。中島教授は「設計者ごとに細かな部分まで図面表現が異なり、数値としてDB化しやすい積算情報よりも自動化への道筋は険しい」と明かす。最終的に21年度末をめどに図面と積算の統合システムとして確立する計画だが、どこまで自動化が実現するかは現時点で未知数だ。
 そもそも自動化の核になるAIは、蓄積した情報の量によって精度が大きく左右する。だからこそシステム開発には建築の専門家でなく、あえてAIの応用研究者である中島教授に相談が舞い込んできた。「私は数値化されたものを前提にAIをどう動かすかを研究する予測AIが専門。今回のように自動化するためのデータベース構築については領域外であるが、予測AIのことを分かった人間がベースを構築しなければ、しっかりとした自動化のシステムは構築できない」
 システム開発の初年度は枠組みづくりに十分な時間をかけてきた。「しっかりとした下地を構築しなければ、機能するAIは実現しない」とは中島教授。設計図書や積算内訳の整合性確認を効率化したいという堺市の思いは他の自治体も同じ。このシステムが確立すれば、全国的に普及する可能性も秘めている。
 
 
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