『被覆こそ建築である』--。建築史家の川向正人東京理科大名誉教授は、21世紀になって明確に形を取り始めた、衣服のように軽く、柔らかく人を包み込むものとしての、あるいは人と人との、人と環境との関係の表れとしての「建築の被覆」という思想のルーツは19世紀ドイツの建築家、ゴットフリート・ゼムパーにまでさかのぼることができると指摘する。
大著『様式』で知られるゼムパーは、ギリシャやシチリアの古代遺跡を調べ歩く中で「光が浸透していくような白い大理石の表面に色が塗られていた」ことを知り、それにインスピレーションを受けて「被覆へと関心が向かった」のだという。
「ものを存在として捉えることを考えたときに、ものとその周囲との境界に媒介する中間的な何かが必要なのではないか。そこから空間境界=被覆のあり方を問うとともに、輪郭を際だたせずに存在の全体的特質や意味を表す色の重要性に気づいた」
その「ポリクロミー(多彩装飾)」が「被覆の原点」であり、「建築の現象を決めるのは色なのだと言っていることが重要」だと強調する。
それは『白のままでは生きられない』という、人間国宝で染織家の志村ふくみさんの言葉とも通底すると指摘する。「植物から染まる色は、その背後にある植物の命が映し出されてくるものであり、命をまとって生きているという。こういうふうに建築を語れれば、いままで見られなかったことをもっとリアルに感じられるのではないか」とも。
被覆とは単に表層の操作ではなく、「自立しつつ環境に融け込み、共振し、より大きな全体を構成する」ものであり、「空間被覆は、衣服のように常に人間に近く、やさしく包み込み、望めば人間が自らつくることができる」。この被覆を通して「地域や個々の人々の思いに建築が応える。この技術がテクトニクであり、これを使うことによってもう一度、建築は世界・宇宙とつながる。これが建築がよみがえる道である」と説く。
〈建築家フォーラム第158回「被覆こそ建築である~新刊『近現代建築史論:ゼムパーの被覆/様式からの考察』を巡って(5月16日開催)より〉
大著『様式』で知られるゼムパーは、ギリシャやシチリアの古代遺跡を調べ歩く中で「光が浸透していくような白い大理石の表面に色が塗られていた」ことを知り、それにインスピレーションを受けて「被覆へと関心が向かった」のだという。
「ものを存在として捉えることを考えたときに、ものとその周囲との境界に媒介する中間的な何かが必要なのではないか。そこから空間境界=被覆のあり方を問うとともに、輪郭を際だたせずに存在の全体的特質や意味を表す色の重要性に気づいた」
その「ポリクロミー(多彩装飾)」が「被覆の原点」であり、「建築の現象を決めるのは色なのだと言っていることが重要」だと強調する。
それは『白のままでは生きられない』という、人間国宝で染織家の志村ふくみさんの言葉とも通底すると指摘する。「植物から染まる色は、その背後にある植物の命が映し出されてくるものであり、命をまとって生きているという。こういうふうに建築を語れれば、いままで見られなかったことをもっとリアルに感じられるのではないか」とも。
被覆とは単に表層の操作ではなく、「自立しつつ環境に融け込み、共振し、より大きな全体を構成する」ものであり、「空間被覆は、衣服のように常に人間に近く、やさしく包み込み、望めば人間が自らつくることができる」。この被覆を通して「地域や個々の人々の思いに建築が応える。この技術がテクトニクであり、これを使うことによってもう一度、建築は世界・宇宙とつながる。これが建築がよみがえる道である」と説く。
〈建築家フォーラム第158回「被覆こそ建築である~新刊『近現代建築史論:ゼムパーの被覆/様式からの考察』を巡って(5月16日開催)より〉