【AIアルゴリズムで建設業に新風】非効率なくしフルポテンシャル引き出す/スタートアップ・燈(あかり) | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【AIアルゴリズムで建設業に新風】非効率なくしフルポテンシャル引き出す/スタートアップ・燈(あかり)

◆建設業界のホワイト産業化に挑戦 
 最先端の建設業向けAI(人工知能)アルゴリズム(計算手順)を提供する東京大学発のスタートアップ企業・燈(あかり、野呂侑希CEO)が注目されている。同大の研究者が開発するAIアルゴリズムを調達・設計・施工・維持管理のさまざまな段階で適用し、各社が取り組む建設DX(デジタルトランスフォーメーション)をさらに一歩先へと前進させている。「時間外労働規制や技術者・技能者の高齢化など建設業が抱えるさまざまな課題をAIで解決し、フルポテンシャルを引き出せるようにしたい」と語る野呂CEOに、今後の経営ビジョンを聞いた。

◆アルゴリズムを用いた情報の構造化/代表取締役CEO野呂侑希氏

 野呂CEOは、東大工学部精密工学科に在籍する現役の学生で、日本のAI研究の第一人者である恩師の松尾豊教授から影響を受けた。エンジニアとして企業でのインターンやAIの共同研究に従事した後、2021年2月に松尾研究所の学生やOBらと起業した。8月現在でメンバーは45人に増え、取り引き先もスーパーゼネコンから地域建設業に拡大するなど、現役東大生のスタートアップで最も成長している企業といわれている。
 同社は、建築生産プロセスの各段階で生成する膨大なデータに着目し、それらを素材に生産性向上や課題解決に活用するためのアルゴリズムを開発している。特徴となるのが、AIによる「認識」まで可能にすることだ。この技術を活用し、DXパートナーとして企業を支援するDXXソリューション事業」と、建設業向け請求書処理業務DXシステム『Digital Billder』(デジタルビルダー)を販売する「AI SaaS 事業」の2事業を展開している。
 野呂CEOは建設業とAIの関係性について「AIは利用目的に合わせてデータを調理するツールであり、現場は巨大な構造物を建設する過程で材料となる膨大なデータを提供する。それらを活用してさまざまな課題のソリューションを開発する」と説明する。現場で根強く使われる紙の設計図や帳票について「われわれはそれらの書類を『潜在的データ』と呼び、デジタルデータに変換するところからサポートしている」という。

OCR・表認識の技術を用いて、設計図書中にある建具表、材料表などをアルゴリズムで認識し、自然言語処理によって“解読”する。従来建築プロセスではページをめくり、情報を探し、マーカーを引いて確認していた業務をアルゴリズムが瞬時に行う


 起業から1年半でヒアリングした企業は100社を超える。自転車で現場に行き、ヘルメットをかぶり安全靴を履いて課題を聞いて回りながら思うのは、「建設業界でクリエーティブというと、まず設計者が思い浮かぶが、現場もすごい。図面どおりいかないときは現場で知恵を絞り工夫して仕上げていく。そこにはたくさんのアイデアが動員される。日々起きる課題や非効率を解決するには、単なるデータ処理の自動化だけでは追いつかない。アルゴリズムが提供する判断とデータ処理が融合することで初めて現場で通用する」と指摘する。
 具体的に、AIアルゴリズムを適用して開発したアプリケーションとして、カメラで撮影した動画とBIMを連携した「デジタルツイン技術」、2次元図面と点群データを活用した「BIM自動作成技術」、設計図や書類に含まれる膨大なテキストや表、情報をアルゴリズムで認識して瞬時に構造化データに変換する「情報抽出技術」「デジタルツイン上での3次元シミュレーション技術」など10を超える。

建設業界で扱うリアル空間とデータの双方向のやりとりにAIツールを介在させることで、既存業務にアルゴリズムによる処理・判断を取り入れ、事業・業務プロセスを変革する


 また、大成建設と連携し、設計図書を構造化データに変換し、図面や仕様書に記載されたデータを再構築して目的別に可視化するプログラムも開発した。建設業界で設計図書の構造化データ化の活用は初めてといわれる。抽出したデータを目的別に可視化する「BIダッシュボード」を活用することで、DXの基盤となるデータ構築と設計図の効率的な活用を可能にした。
 デジタルビルダーでは、あらゆる請求書に対応する『フォーマットフリー』を実現した。「企業の請求書をAIが解析し、受領・承認・保管・入力を即座に自動化する。料金体系も低く設定した」と話す。

建設業に特化した請求書電子サービス「デジタルビルダー」 

 斬新なシステムで業界に新風を吹き込んでいるが、「われわれデジタル世代が仕事ができるのも建設業界の多くの先人が活躍してきたからだ。日本を支えるインフラをつくったゼネコンの技術はすごい。分からないところは素直に教えてもらいながら、のびのびと仕事をさせてもらっている」という。
 目標は、ワークライフバランスの実現と働き方改革に貢献し、「建設業界がホワイト産業と言われるようになることだ」と力を込める。「高いスキルを持つ日本の建設業の海外進出にも貢献したい。当社も共に世界で勝負できるように挑戦していく」と先を見据える。



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