チヨダウーテが世界で初めて製品化した100%リサイクル石膏ボード『チヨダサーキュラーせっこうボード』(サーキュラー)の生産体制を整えた。発売から1年が経過し、生産量はまだ全体の数%にとどまるものの、環境志向の建築主や施工者を中心に非住宅分野の需要に動きが出始めた。価格も発売当初より約2割引き下げ、原料調達から製造までの定量的な環境情報を検証するSuMPO環境ラベル(SuMPO EPD)も取得した。新田亙常務執行役員営業本部副本部長兼開発部長は「廃石膏ボードから新たな石膏ボードを生み出す『ボードtoボード』の流れを広げていきたい」と力を込める。
サーキュラーは、建築現場から回収した廃石膏ボードから改質した原料石膏を100%使った世界初のリサイクル石膏ボードで、しかもボード製造時の熱源を木くずチップを燃料としたバイオマスボイラー、電力についても太陽光や風力などの再生可能エネルギーを使う実質ゼロカーボン石膏ボードでもある。
出発点は2011年にさかのぼる。トクヤマとの合弁会社トクヤマ・チヨダジプサム(三重県川越町)を設立し、13年3月四日市工場内に廃石膏ボードリサイクル工場を整備したのを機に、16年7月に千葉工場、23年9月には室蘭工場にも増設した。現在は四日市で年4万t、千葉で年8万t、室蘭で年2万tの製造能力を確保し、原料となる廃石膏ボードの回収体制も整えてきた。
廃石膏ボードリサイクル工場を併設する四日市工場では廃石膏ボードの安定した確保が整ったことから100%リサイクルとなるサーキュラーの製造販売を23年6月からスタートした。続いて千葉工場も今年1月から製造販売に乗り出した。室蘭工場ではエコマーク認定基準となる再生材使用量50%以上に合わせたチヨダ北海道ボードに全製品を23年12月から切り替えた。
武居倫太郎営業本部マーケティング室長は「販売から1年が経過し、明確なターゲットが見えてきた」と明かす。採用される建物用途は非住宅分野が中心となり、特に店舗系への採用が目立っている。内装工事が頻繁にあり、しかもオーナー側の環境配慮に対する思いが強く、内装工事会社の受注提案にサーキュラーを組み込む流れが広がってきた。
象徴的な動きとして、テナントビルの環境配慮に力を注ぐ森ビルが、船場と連携する形で取り組む廃石膏ボードの水平リサイクル共同実証実験にチヨダウーテも参加し、サーキュラーを使ったリサイクルスキームの構築も進行中だ。廃石膏ボードの排出量は32年に全国で年200万t、47年には年300万tを超え、最終処分場の逼迫だけでなく、安定供給の側面から廃石膏ボードの再利用化が求められている。
森ビルではテナントビル工事における100%リサイクル材の普及に向け、工事会社やメーカーなどと連携したスキームを構築しており、タイルカーペットなどに続き、廃石膏ボードの再利用化についても実証実験をスタートした。内装工事を担う船場もエシカルデザインを推し進めており、環境商材の採用拡大やリサイクルに向けた工事現場の廃材分別を徹底している。
武居氏は「このように非住宅分野では大手デベロッパーや店舗系を中心に、オーナーや施工者の環境意識が急速に高まりを見せており、サーキュラーの強みを発揮できる流れが広がり始めた」と手応えをつかんでいる。チヨダウーテは販売ターゲットが明確に定まり、供給体制も整ったことから、大幅な価格改定にも乗り出した。
発売当初は1㎡当たり1325円に設定していたが、これを1100円まで17%引き下げ、標準ボードとの設計価格差を2割程度まで縮めた。新田氏は「100%リサイクルという価値を広げるためにも最大限に価格を抑えた」と強調する。約10年前からの先行投資効果が価格引き下げに貢献し、原料の廃石膏ボードを安定収集できるようになったことも後押しとなった。
サーキュラーの強みは、100%リサイクルだけではない。製造時のCO2排出量削減についても積極的に設備投資してきたことが強みになっている。工場では熱源のバイオマスボイラーに加え、再生可能エネルギー由来電力の採用を推し進めている。CO2排出量は四日市工場で年約5200t、千葉工場で年約3800tを削減しており、石膏ボード製造は実質ゼロカーボンを実現している。
SuMPO環境ラベルプログラムによるライフサイクル影響評価(気候変動)で、サーキュラーは1㎡当たり1.1㎏-CO2eqという数値を示した。これは原材料調達、原材料輸送、製品製造までの環境評価となり、標準的な石膏ボードの数値と比べ約4分の1の水準だ。100%リサイクル原料と製造時の徹底したCO2排出量削減が下支えとなっている。
建設リサイクル法の対象は木材、コンクリート、アスファルトとなる。武居氏は「将来、石膏ボードが対象品目に入れば廃石膏ボードの回収が進み、サーキュラーの競争力がさらに高まる」と期待している。その実現には廃石膏ボードのリサイクル拠点増設や、既存工場の能力拡大が課題としてあり、将来を見据えた投資計画も検討しているという。チヨダウーテは「ボードtoボード」の普及に向けて走り始めた。