東畑建築事務所では2012年から新入社員のBIM講習がスタートした。学生時代からオートデスクのBIMソフト『Revit』を使っている新入社員は多く、今ではRevitの基本操作講習を2日間にとどめ、実際の設計プランに基づいて実践的に学ぶ時間を増やし、計5日間で一通りを学ぶカリキュラムを組んでいる。
D×デザイン室長の上羽一輝氏は「オリジナルのテキストを用意し、それに基づいてサンプルモデルを作成する流れで新人講習を進めているが、その期間に実プロジェクトでBIMを活用する設計担当がいる場合には一緒に参加させている」と説明する。以前は全社員対象のBIM講習を進めてきたが、当時はまだBIM導入案件が少なかったため、講習を完了してもBIMを使う機会に恵まれない社員がいた。現在はプロジェクトの状況に応じて研修を実施しており、過去の研修動画などを有効利用しながら柔軟な対応を心掛けているという。
近年はオートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を基盤にプロジェクト関係者間で意思決定を円滑に進めており、『BIM Collaborate Pro』を使った外部との共同作業が広がりを見せている。Revitのコラボレーション機能を使って複数人で一つの建物をモデリングするなど、ACCでのモデル共有に関連したカリキュラムも追加した。
D×デザイン室メンバーで構造設計室主管の山本敦氏は「グループで作成したモデルからパースや動画を作成し、プレゼンテーションの実習や、VR(仮想現実)を使って実物大のスケール感を体感してもらう教育も進めている」と説明する。新入社員は研修後に各部門を経験するジョブローテーションに参加しており、D×デザイン室もその対象に組み込み、他部署と同様に1カ月間にわたって仕事の流れを経験する。
D×デザイン室では、新入社員が実際の設計の中でBIMを活用するトレーニングとして、1級建築士試験の実務課題をRevitでモデリングすることにも取り組んでいる。上羽氏は「このように新入社員は研修を通してRevitが日常ツールであることを実感していく」と強調する。
岡本茂常務執行役員技術本部長は「新入社員が体感しながらBIMの必要性を理解していくように、業務を一つひとつこなす中で、社員はクライアントに対して常に寄り添う姿勢を理解し、吸収していく」と付け加える。同社が6月1日付で品質推進本部を技術本部、BIM推進室をD×デザイン室にそれぞれ改編したのも「寄り添う姿勢の根底にある設計品質を、BIMを使って進化させていく」狙いがある。
同社はBIMの次のステージとして実施設計への展開にかじを切った。デジタルとデザインを融合させ、設計品質のさらなる向上につなげていくD×デザイン室は今後どう進化していくか。山本氏は「意匠、構造、設備の各部門が横連携していくことが重要になるだけに、まずはBIMに取り組む価値を皆で共有していく流れをつくっていきたい」と語る。
実プロジェクトの設計メンバーには、自発的にBIMに取り組む担当者が増え、彼らを基点にBIM活用が着実に広がり始めている。上羽氏は「これまでわれわれはプロジェクトの下支え役としてBIMの使い方や実践の仕方をマネジメントしてきた。これからは設計品質の部分をBIMによって進化、発展させることが使命になる」と語る。組織改編の先には、同社が目指すべきBIMの到達点が浮かび上がってくる。
(おわり)